「ほんなら少しでも楽になるように、まじないをしておきましょか」
「是非。お願いします」
北村のばあちゃんが頭を下げる。分かりましたと言って、阿切さんは首に掛けていた数珠を取った。
あの時みたいに手首に巻き付けるのではなく、2重にして親指に掛けると、両手で挟んだ。
「――――――」
また何と言っているのか分からない、経が読み上げられる。それを黙って、ばあちゃん達と聞いていた。
時間にして1分程。短い経が終わると、阿切さんは右手をさっと横に払った。ばあちゃんの肩の上。不調を訴える右肩の上で空を切る。
それからぽんぽんと肩を叩いて、にこと微笑んだ。
「これでおしまいです」
何とも呆気ない行為。気休め。本当にまじないであることに、正直驚いてしまう。
しかしばあちゃんは訝しく思う様子もなく、ゆっくりと肩を上げてみる。するとさっきまでは全然上がっていなかった肩が、嘘のようにひょいと上がった。
「二王頭さん、上がるわ~。何やずっと重かったんやけど、軽なってるわ」
そのままぐるぐると腕が回されそうな勢い。さっきは上がらない演技でもしていて、本当か? と疑いたくなるレベルの効果だった。
「効いたみたいで、よかったです」
治った様子を見て、じいちゃんがはぁーと感心した声を上げる。
「二王頭さん、凄いな~。何でも治してみせますなぁ」
「ははは。お褒めの言葉ありがとうございます。せやけど私は医者とちゃいますから、治しは出来ません。ただ痛みを和らげたり、早く治るようにまじないを掛けさせてもらってるだけです」
「やけどこうして治ったんやから。ほんま、二王頭さんは徳里村の神様やわぁ」
嬉しそうに。何気なく言った言葉。それはばあちゃんなりの最大級の賛辞だったと思う。
阿切さんは微笑みを崩すことなく――何も言わずにばあちゃんを見ていた。
まじないの効果で肩の不調が治り、ふたりが頭を下げる。
「二王頭さん、ほんまにありがとうございました。今日は何も持って来やんかったで、明日お礼持って来ます」
「いえいえ。私は大したことしてませんし、その気持ちだけで充分です」
せやけどと、ばあちゃんが食い下がる中。そこから離れた所にいたじいちゃんが、俺の方に振り返る。じぃっと。無表情に見てくるので、どうしたんだろう? と口を開き掛けて、先に話し掛けられた。
「――あんたんとこの父親。村の泥やな」
「……え?」
泥?
意味を図り兼ねている内に、じいちゃんはくるりと背を向けた。再びこちらを見ることなく、ふたりは境内から出ていく。それを見送って、阿切さんが拝殿へと戻ってきた。
「柊雨君、待たせて悪かったなぁ」
「あ、いえ。俺が突然来ましたから」
さっきのことは一旦頭から離す。切り替えて大丈夫ですと言うと、阿切さんがにこりと笑う。改めて俺の正面に腰を下ろして、居住まいを正した。
「何や僕に用があるみたいやけど。どうしたん?」
「是非。お願いします」
北村のばあちゃんが頭を下げる。分かりましたと言って、阿切さんは首に掛けていた数珠を取った。
あの時みたいに手首に巻き付けるのではなく、2重にして親指に掛けると、両手で挟んだ。
「――――――」
また何と言っているのか分からない、経が読み上げられる。それを黙って、ばあちゃん達と聞いていた。
時間にして1分程。短い経が終わると、阿切さんは右手をさっと横に払った。ばあちゃんの肩の上。不調を訴える右肩の上で空を切る。
それからぽんぽんと肩を叩いて、にこと微笑んだ。
「これでおしまいです」
何とも呆気ない行為。気休め。本当にまじないであることに、正直驚いてしまう。
しかしばあちゃんは訝しく思う様子もなく、ゆっくりと肩を上げてみる。するとさっきまでは全然上がっていなかった肩が、嘘のようにひょいと上がった。
「二王頭さん、上がるわ~。何やずっと重かったんやけど、軽なってるわ」
そのままぐるぐると腕が回されそうな勢い。さっきは上がらない演技でもしていて、本当か? と疑いたくなるレベルの効果だった。
「効いたみたいで、よかったです」
治った様子を見て、じいちゃんがはぁーと感心した声を上げる。
「二王頭さん、凄いな~。何でも治してみせますなぁ」
「ははは。お褒めの言葉ありがとうございます。せやけど私は医者とちゃいますから、治しは出来ません。ただ痛みを和らげたり、早く治るようにまじないを掛けさせてもらってるだけです」
「やけどこうして治ったんやから。ほんま、二王頭さんは徳里村の神様やわぁ」
嬉しそうに。何気なく言った言葉。それはばあちゃんなりの最大級の賛辞だったと思う。
阿切さんは微笑みを崩すことなく――何も言わずにばあちゃんを見ていた。
まじないの効果で肩の不調が治り、ふたりが頭を下げる。
「二王頭さん、ほんまにありがとうございました。今日は何も持って来やんかったで、明日お礼持って来ます」
「いえいえ。私は大したことしてませんし、その気持ちだけで充分です」
せやけどと、ばあちゃんが食い下がる中。そこから離れた所にいたじいちゃんが、俺の方に振り返る。じぃっと。無表情に見てくるので、どうしたんだろう? と口を開き掛けて、先に話し掛けられた。
「――あんたんとこの父親。村の泥やな」
「……え?」
泥?
意味を図り兼ねている内に、じいちゃんはくるりと背を向けた。再びこちらを見ることなく、ふたりは境内から出ていく。それを見送って、阿切さんが拝殿へと戻ってきた。
「柊雨君、待たせて悪かったなぁ」
「あ、いえ。俺が突然来ましたから」
さっきのことは一旦頭から離す。切り替えて大丈夫ですと言うと、阿切さんがにこりと笑う。改めて俺の正面に腰を下ろして、居住まいを正した。
「何や僕に用があるみたいやけど。どうしたん?」

