座って待っときと言って、阿切さんが床に手をぽんと乗せる。それを見てはいと答えて、隣に座った。
「それで、ずっと右肩の調子が悪いんですか?」
「そうなんや。何や重いっちゅうのか、だるいっちゅうのか。思うように上がらへんのやぁ」
「俺は歳やぁ言うてんのやけどなぁ。1回見てもらうー言うて、聞かんのや」
「ははは。でも私としては、頼りにしてもろて嬉しいですよ。せやけどそれやったら、畑仕事も思うように出来ひんし、困りますなぁ」
「そうなんや。何が原因やろか?」
そう言って、北村のばあちゃんの顔が顰められる。右肩を上げようとしているようだが、頭の上までも上がっていなかった。
どうやらふたりは参拝ではなく、阿切さんに相談しに来たようだった。
この村の住人――特に年配の方は、阿切さんに相談をしに行くことが多い。
相談と言う名の世間話や愚痴などもあるらしいが、家のこと、子供のこと、これからの人生のこと。
そして一番多いのが “体の不調” のことらしく、北村のばあちゃんも例に漏れていなかった。
俺は若いと言うこともあってか、じいちゃんばあちゃんのように、村の信仰心と言うのは高い方じゃない。
それに風邪や病気、怪我をすれば普通に病院に行くので、まず最初に阿切さんに見てもらう、と言う感性はよく分からなかった。
ただ本当に。村民の阿切さんへの信頼が高いのは事実。
それこそ神のように。絶対なる心腹と全幅の信頼を寄せていて――それにはそうなる “結果”があるのは間違いはなかった。
……でも俺は普段。
阿切さんとそんな接点ないしなぁ。
頻繁に参拝に来る訳でもない。何か悩みがあるなら莎菜か智喜に相談する。
たまに道で会った時に挨拶したり、先日のように葬儀で顔を合わせるくらい。
阿切さんとは10歳程離れているので、小さい頃から大人の人、と言う存在だった。
関わりもなく、一緒に遊んだ記憶もない。でも挨拶すればいつも笑顔で答えてくれる、いいお兄さんと言う印象を持っていた。
そうしてあの日。
知らない阿切さんを知ることになった――。
だから順番待ちである今が、阿切さんを知るいい機会かも知れないと、密かに思いながら座っていた。
北村のばあちゃんの不調を聞いて、なるほどと呟く。
「右肩ですか。もしかしてだるさだけじゃなく、痛みもありませんか?」
「せやなぁ。我慢出来ひんくらい、痛いーちゅうことはないんやけど。なんやズキズキするなぁちゅう痛みはあるんや」
それを聞いた阿切さんの目は細められ、じーっと睨むような視線が向けられる。
「……せやろなぁ」
肩を見つめながらぽつりと呟かれた言葉は、傍にいる俺でさえ聞き取りにくい程の小ささだった。
と、阿切さんはぱんと手を合わし、にこりと笑った。
「それで、ずっと右肩の調子が悪いんですか?」
「そうなんや。何や重いっちゅうのか、だるいっちゅうのか。思うように上がらへんのやぁ」
「俺は歳やぁ言うてんのやけどなぁ。1回見てもらうー言うて、聞かんのや」
「ははは。でも私としては、頼りにしてもろて嬉しいですよ。せやけどそれやったら、畑仕事も思うように出来ひんし、困りますなぁ」
「そうなんや。何が原因やろか?」
そう言って、北村のばあちゃんの顔が顰められる。右肩を上げようとしているようだが、頭の上までも上がっていなかった。
どうやらふたりは参拝ではなく、阿切さんに相談しに来たようだった。
この村の住人――特に年配の方は、阿切さんに相談をしに行くことが多い。
相談と言う名の世間話や愚痴などもあるらしいが、家のこと、子供のこと、これからの人生のこと。
そして一番多いのが “体の不調” のことらしく、北村のばあちゃんも例に漏れていなかった。
俺は若いと言うこともあってか、じいちゃんばあちゃんのように、村の信仰心と言うのは高い方じゃない。
それに風邪や病気、怪我をすれば普通に病院に行くので、まず最初に阿切さんに見てもらう、と言う感性はよく分からなかった。
ただ本当に。村民の阿切さんへの信頼が高いのは事実。
それこそ神のように。絶対なる心腹と全幅の信頼を寄せていて――それにはそうなる “結果”があるのは間違いはなかった。
……でも俺は普段。
阿切さんとそんな接点ないしなぁ。
頻繁に参拝に来る訳でもない。何か悩みがあるなら莎菜か智喜に相談する。
たまに道で会った時に挨拶したり、先日のように葬儀で顔を合わせるくらい。
阿切さんとは10歳程離れているので、小さい頃から大人の人、と言う存在だった。
関わりもなく、一緒に遊んだ記憶もない。でも挨拶すればいつも笑顔で答えてくれる、いいお兄さんと言う印象を持っていた。
そうしてあの日。
知らない阿切さんを知ることになった――。
だから順番待ちである今が、阿切さんを知るいい機会かも知れないと、密かに思いながら座っていた。
北村のばあちゃんの不調を聞いて、なるほどと呟く。
「右肩ですか。もしかしてだるさだけじゃなく、痛みもありませんか?」
「せやなぁ。我慢出来ひんくらい、痛いーちゅうことはないんやけど。なんやズキズキするなぁちゅう痛みはあるんや」
それを聞いた阿切さんの目は細められ、じーっと睨むような視線が向けられる。
「……せやろなぁ」
肩を見つめながらぽつりと呟かれた言葉は、傍にいる俺でさえ聞き取りにくい程の小ささだった。
と、阿切さんはぱんと手を合わし、にこりと笑った。

