コトリカゴ

 自転車の後ろに莎菜を乗せて、村に帰ってくる。この村特有ののんびりした田舎の空気を感じると、いつも帰ってきたなぁと思う。

 日が落ちかけた夕方の空。一本道を池田家に向かって走っていると、前方に人の姿が見えた。

 黒い袈裟を羽織り、ふらふらと歩いている。遠くからでは顔は分からなかったが、体型で誰かすぐに分かった。

 白川さんか……。

 出来れば出会いたくないので、つい嫌悪感を抱いてしまう。
 しかし珍しいなと、別の感情も生まれた。

 先日の葬儀や村の行事にはもちろん姿を現すが、普段はあまり見ない。家に籠りがちなのか、村の外に出ているのか? 詳しくは知らないが、見ないに越したことはなかった。

 村長と言う肩書きはあるが、何かしらの仕事には就いている、だろうし。
 さすがに村長だけでは、暮らしていけないよな。

 そんなことを思いながら、白川さんに向かって走っていく。本当なら分岐でもあれば、遠回りでもして避けるのだが、生憎と一本の道しかない。

 莎菜が苦手としているので、そんな相手のことを視界の中に入れさせたくない。でも仕方ないので一気に通り抜けることにして、後ろの莎菜に話し掛けた。

「少しスピードを上げるよ」

「うん?」

 疑問の混じる返事がされ、でも落ちないように俺の腰に手が回る。それからペダルをぐんと漕ぎ、スピードを出した。

 そよそよと肌に当たっていた風は、勢いを増して切っていく。

 挨拶はしない。したってどうせ無視されるだけ。
 それならしなくてもいいと、子供の頃に学んだ。
 相手がこっちを良く思っていないように、俺も良くは思っていないから。

 ふら、ふらと。ゆっくりした足取りで歩く白川さんの横を通り過ぎる。

 一瞬。

 スピードを上げた自転車ではあっと言う間の出来事で、通り過ぎてからはスピードを緩めた。

 何の接触もなくてよかった。
 万が一にも声を掛けられたり、突っ掛かられたりしたら嫌だしな。と、一抹の安心をして、ふと思い返す。

 ――通り抜けた時に見た白川さんは、酷く疲れた顔をしていた。

 寝ていないのか。何か精神的に参ったことでもあったのか。どんよりと暗い表情に、目に力が入っていなかった。

 嫌いな相手ではあるが気になって、ちらと後ろを振り返ってみる――

 何故か白川さんは足を止めて、じー……っと。
 無表情な顔で、俺達を凝視していた。

 それに妙な恐怖を感じた。一刻も早く視界の中から消えたい気持ちが湧き上がる。

 俺は目が合っていないフリをして、急いで顔を正面に戻す。再びスピードを上げて、白川さんから離れた。