コトリカゴ

◇ ◇


 ――夜が深まり、日付けが変わる時刻。
 街灯がほとんどない村の夜は、不気味な程の漆黒の闇に包まれる。
 時折野生動物の鳴き声が聞こえるが、しんと静まり返る様子は、ここに村など存在しないかのようだった。

 そんな深夜。懐中電灯を照らしながら、白川は神社への階段を上っていた。長い、長い石階段。歴史ある神社であるから、手すりはない。
 普段からの運動不足と、太った体型故に、本殿までの道のりは毎度辛い。
 時々途中で腰を折り休憩しながら、階段を上り切った。

 上り切ったところに、一番大きな鳥居がある。

 上ってきた階段に灯りはなく、真っ暗な中を上ってきたが、ここまで来ると視界がぼんやりと明るくなる。
 本殿前の広場にふたつの篝火が燃やされていて、火の明かりが敷地内を照らしていた。

 口にこそ出さないが、白川はようやく着いたわと思う。
 そんな白川はいつもはTシャツやポロシャツに、よれよれのズボンの格好であるが、今日はその上に黒色の袈裟を羽織っていた。

 夏とは言え、昔は夜になれば涼しかった。しかし最近は田舎でも暑く、白川は額から流れる汗を袈裟の袖で拭う。

「ガサリ」

 その反動で、手に持っているビニール袋が音を鳴らした。

 ひと呼吸休憩をしてから、鳥居を潜る。短い参道の先、篝火の近くに祭壇が設置されている。その前で準備をしているのは、阿切だった。

「阿切さん、遅うなりました。準備ありがとうございます」

 傍まで近付いて、白川はぺこぺこと頭を下げる。

「いえ、大丈夫ですよ。準備言うても、簡単なところを終えただけですから。それよりお勤めご苦労様です」

 にこと阿切が微笑むと、滅相もないですと、また何度も頭が下げられた。

 阿切が準備した祭壇には、グリーンピースや新玉ねぎ、ワラビと言った旬の野菜が置かれている。後は米が入った升、お菓子が入った皿があった。
 それだけなら違和感がないが、それに交じり熊のぬいぐるみと、小さな黄色のボールが供えられている。しかし白川も阿切も、それをおかしいと思う様子はない。

 そしてその祭壇の向こう側――別にまたひとつ、白い祭壇があった。こちらが大きめに対してそっちの小さめの祭壇には、綺麗な花が活けらた花瓶があり、上段に白い陶器の壺が置かれていた。

 もうほとんど、準備は終わっているようなものだった。後は白川待ち。白川が持ってきた物で全てが揃い――本殿手前で炊かれた護摩が、激しく燃えていた。