コトリカゴ

「ただいま」

 二度目の家に帰ってくると、今度は明かりが付いていた。廊下を歩き台所に向かうと、母親が夕飯の準備をしている。もう一度ただいまと言おうとして、違和感に、そっちを先に訊ねてしまった。

「あれ? 髪の毛切ったんだ」

 朝。確かに長かった髪の毛が、ぱつっと肩まで短くなっていた。

「あ、あぁ、柊雨。おかえり。えぇ、長くて面倒くさかったから切ったの」

「へぇー……」

 切った。と言う割には引っ掛かった。切り方が整えられたものではなく、不自然に不格好だったから。
 美容院で切ったのではなく、まるで自分で切り落としたような。左右の長さも違った。

「最近は暑くなってきたしね。急に嫌気が差して、自分で切っちゃった」

「そんなことある?」

「あるの。明日ちゃんと美容院に行って、整えてくるから大丈夫よ」

 めちゃくちゃな理論に苦笑しながら、林檎のお礼を伝える。

「林檎、喜んでくれてたよ。ありがとうって言っておいてって」

「本当に? それならよかった。莎菜ちゃんも大丈夫そうだった?」

「うん。明日は行けそうだって」

「よかったわね」

 ふふふと笑って、母親は水の入れたお鍋を火にかけた。

「今日はお蕎麦にしようと思うんだけど。何玉食べる?」

「2。いや、3……」

「相変わらず食べるわねー。3玉茹でておくわ」

「うん。何か手伝うことはある?」

「じゃあ天ぷらを揚げてもらおうかな?」

「分かった。先に着替えてくる」

「はーい。こっちも用意しておくわ」

 一旦台所から出て、部屋に向かう。居間に放っていたリュックを置いて、部屋着に着替え、再び台所に戻った。

 バッター液が準備されたので、海老と茄子、玉ねぎを揚げていく。その隣で母親は、かぼちゃを切っていた。

 機嫌良く――普段と何ら変わらない。
 しかしぽつりと。母親が小さく呟く。

「――雨が降った後には虹が出る」

 それを掻き消すようにダン! と。包丁が硬いかぼちゃを切り分けた音が鳴った。