コトリカゴ

 電気の付いていない家に着いて、リュックを置き、林檎が入った袋を手にして、また家を出る。
 莎菜の家に着くまでのここまで、はっきりした記憶は残っていなかった。足だけが無意識に動いていて、ずっと自分の世界に入って考え事をしていた。

 気付けば庭に着いていて、ハッと我に返った俺は、自転車のカゴから袋を取った。

「ピンポーン」

 玄関のチャイムを鳴らして、そのまま扉を開ける。
 田舎のあるあるとして、昔からの古い家には、玄関チャイムが設置されていないのがほとんど。だから訪問した時は扉を開け、玄関口まで入り、すみませーんと呼ぶのが一般的である。

 でも莎菜の家は新しいと言うか、今の常識に沿っていると言うか。玄関にチャイムが設置されている。だから押して鳴らすが、そのまま入っていい許可を得ていた。
 あくまでチャイムは、俺が来たと言う知らせ。

 玄関口までお邪魔して、こんばんはと呼び掛けた。

「柊雨兄ちゃ~ん」

 真っ先にやって来たのは維織だった。チャイムが鳴って、やって来たのが俺だと分かっている。
 手にホットケーキのひと切れを握っていた。

「維織ね、今おやつ食べてたの」

 現状を教えてくれながら、にこにこした顔でホットケーキを口に運ぶ。

「美味しそうだね。ママが作ってくれたの?」

「うん! 柊雨兄ちゃんも一緒に食べよ」

 ホットケーキにはシロップがかけられていたんだろう。握っていた手と、口周りがベトベトになっている。
 大人ならだらしなく映るが、小さい子供だと可愛く見えて、そうだなと相槌を打った時だった。

「こら、維織。お行儀が悪いですよ。座って食べなさい」

 まず注意してから、やって来たお母さんがいらっしゃいと笑顔で迎えてくれる。

「こんばんは。お見舞いに来たのですが、莎菜さんの様子はいかがですか?」

「だいぶ良くなったみたい。部屋にいるから、見て来てあげて」

「ありがとうございます。あの、これ。林檎です」

 持ってきた林檎を渡すと、受け取ったお母さんの顔がわぁと綻ぶ。

「美味しそうな林檎。こんなにたくさんもらっていいの?」

「はい。母親から是非にと」

「ありがとう。またお礼の連絡しておくけど、柊雨君からも伝えておいて」

「はい」

 答えて、お邪魔しますと靴を脱ぐ。維織にリビングに連れて行かれそうになるが、お母さんが止める。
 手を振って見送ってから、2階への階段を上った。