「あれを病と言うのもおかしいかもな。せやけど病としか、呼びようがあらへん。何が原因で、何をきっかけになってんのかも分からん。元気やったもんがある日突然発症して、なってしもたら治す薬も方法もあらへん。この徳里村だけに蔓延る不治の病。唯一あるとしたら、阿切さんに力を貸してもらうことだけや」
それが――あれのことなのだろう。
燃えたお札。念仏。独鈷。
成仏、除霊。
何と言ったらいいかのか、分からないが……。
「俺が知ってるんはここまでや」
フィルターギリギリまで吸った煙草を、息子さんは手に持っていたコーヒーの缶の中に入れる。
まだ衝撃が余韻として残っていたが、教えてくれたことに頭を下げた。
「ありがとうございました。正直……まだ理解が追い付いていない部分もありますが」
「はは。信じるんも信じひんのも、あんた次第や――と言いたいところやけどな。俺も全く信じてへんかったのに、信じるんを得んくなったしな。まぁ今の若い子は、この話誰も知らんやろうなぁ。でもあんたんとこの親父さんやったら知っとるやろ。なんせこの村の出身やしな」
もっと知りたいんやったら訊いてみぃと言われたが、複雑な気持ちではいとだけ答える。
「ばあちゃんは、やっぱり村に残るんですか?」
「残る言うてきかん。でも親父はおらんくなったし、こんな不便なとこ、ひとりで置いておくのも心配やからな。いずれは連れて行こうと思う。とりあえずは今日、一旦家に帰るけどな」
ばあちゃんに、何も後遺症がなくて良かったと思う。でもあんなことがあって。ばあちゃんの本心が分からない以上、少し心配ではあった。
「帰り、気を付けて下さい」
「おおきにな。あぁ、せや」
帰ろうとして、止められる。息子さんはポケットから財布を取り出し、中から名刺を一枚抜いた。
「これ、勤め先の名刺やけど、番号は俺の携帯のやから。もし俺か真由子が戻ってくるまでに、母親に何かあったら電話してくれへんか? こんなこと頼んで悪いんやけど」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
「悪いな。そんな顔を見てまで様子見てくれとは言わん。こうして家の前通り過ぎた時にでも、ちらっと見てくれたら助かるわ」
「分かりました」
受け取った名刺を胸ポケットに入れ、今度こそではと離れる。
自転車を漕ぎ、家に向かう道のり。
莎菜に会える楽しみはどこかに。聞いた話で上の空になっていた。

