コトリカゴ

 最寄りの駅に着いて、自転車で村に向かう。この頃には考え事のもやもやは消えていて、莎菜と会話をしながら楽しく帰っていた。

 村に入ってすぐ、後ろに座る莎菜に訊ねる。

「時間あるって聞いていたけど、どうしたらいい?」

「あ、そうだね。えーと。少し柊雨君と話したいなぁって思っていたから、場所は何処でもいいんだけど」

「ふたりな方がいい?」

 大事な話なら場所を選んだ方がいいだろうが、そうじゃないなら俺の家でもいいかなと思った。もし母親が仕事から帰っていて、莎菜を連れて帰ったら喜ぶから。

「出来たら」

「分かった」

 じゃあ何処にしようかな? と同時に、大事な話っぽいので何だろう? と思う。どちらにせよ日が落ちる前には送り届けたいので、自転車を漕ぎながら場所を考えた。

 とは言えここは都会とは違って、公園があったり、コンビニがあったりと、足を止めるような施設がない。
 だから考えると言ってもひとつしかなく。この時間帯、ふたりになれるような場所と言えば、村の奥にある神社しかなかった。

 ――この村にある唯一の神社。
 二王頭(におうず)神社。

 村の奥、更に山の中にある。村全体を上から見渡せる場所にあるそこは、長く険しい石階段を上って辿り着ける。

 ただ唯一の神社と言うこともあって、年末年始は参拝する人が多いし、何よりこの神社の神主である阿切さんが、村人から絶大な信頼を寄せられている。
 村人の相談役であり、不思議な力を持っていると言うのは誰もが耳にする話で。その為日中は、神社に行く人も少なくない。

 不思議な力、か――。と頭を過ぎるのは、やっぱりあの日のことだった。豹変した横井のじいちゃんを鎮めたのは、他でもない阿切さんで。あの時ひとりでに護符が燃えたことは、不思議な力と言ってもおかしくなかった。


 一本道を奥に奥にと走り、やがて道が途絶える。村の端までやって来て、自転車を止めた。

 周囲は林に囲まれ、長く上へと続く石階段がある。年月を物語るように、一段一段の路面はところどころ崩れ風化し、苔が生えていた。
 階段の前の両脇には狛犬が鎮座していて、それを抜けてずっと上っていけば神社に着くのだが、今日の目的は参拝ではないので、数段上ったところで腰を下ろした。

 石の硬い感触と、ごつごつした座り心地の悪さを感じながら、並んで座る。
 夜の空気が混じり出し、少し暗くなりかけた景色の中。莎菜の小さな口が開いた。

「柊雨君」