コトリカゴ

 それから父親の話題が出ることはなく、夕ご飯を食べ終えた。片付けは母さんがしておくねと言われたので、ありがとうと言って居間を離れた。
 そのまま居続けてテレビを見ていてもよかったが、何となくの居心地の悪さを覚えて、部屋へと向かった。
 莎菜に今日の葬儀のお疲れ様と、明日またいつもの時間に迎えに行くよとLINEのやり取りをしてから、お風呂に入りにいった。


 お風呂上がり後、濡れた髪の毛からシャンプーのいい匂いがする。ドライヤーを手に、居間に向かう長い縁側を歩きながら、考えることはやはり父親のことだった。

 急に出張と決まったこと以外、詳細は何も知らない。もちろん母親は聞いていて知っているだろうが、それをこれまで聞かされたことはなかった。

 ……普通に考えたら、聞かされないなんておかしいよな。
 細かい内容はともかく。こう言う理由で出張が決まった、くらいは教えてくれても良いはず。

 それなのに母親は何も語ろうとしない。俺が訊いたから重要な出張だと言っただけで、それ以上は深掘りするなと言う圧さえあった。

 ――父親の仕事は何も、国に関わるような重大な職に就いていると言う訳じゃない。至って平凡な会社員で、事務職をしている。
 ただキャリアはあり部長を任されていたので、たまに帰りが遅い日はあった。

 そしてまた母親と父親が、特段仲が悪かった訳でもない。普通に会話はあったし、言い合いや喧嘩をしている姿を見たこともなかった。

 だから例えば、ふたりが喧嘩をして別居と言う名の出張としている訳でもないと思う。
 本当に父親は仕事に行っていて――けれどどこか納得出来ない自分もいた。

『――とても重要なことよ。それこそ、村の反感を買ってでも帰って来れないくらいの』

 ……白川さんから非難を受けるとしても、重要なことって何だよ?
 そんなに大事なことなら、息子にも教えてくれたっていいじゃないか。

 もやっと不満が表れ、何気なく窓の外を見た時だった。

「ん?」

 家からの明かりだけが漏れる、闇夜。真っ暗な中に、小さな光の玉があった。薄朧気な明るさの光はまるで意思があるように、ゆらぁ……と動いている。ゆっくり上下しながら、左から右へと移動すると、何事もなかったようにふっと消えてしまった。

「何だったんだ? 今の……」

 火の玉。オーブ。そう言われれば、そうなのかも知れない。
 しかし生憎と、俺はその手の話を信じていなかった。

 もちろんそう言う世界が、全くないとは思っていない。でも実際幽霊やお化けをこの目で見たことがないので、疑っていると言ったところ。

 猫や野生の動物の目の光にしては大きかったが、この時はそうだろうと、あまり気にしていなかった。

 この光が昨日と同じ場所。
 小屋の中で現れたものだと、確かめることもなく――。