コトリカゴ

 久し振りに智喜と遊んで、夕方18時前に家を出た。

「今日はありがとう。また明日」

「俺の方こそ楽しかったよ。また学校でな」

 玄関前まで来てくれた智喜に手を振り、自転車に乗って帰る。明日からはまたバスケ漬けになるだろう友人と、一時でもこうして遊べたことが、思った以上に楽しかった。

 その時ばかりは父親に対しての鬱積も忘れていたが、家に近付いてくると蘇ってしまう。
 とは言え自分があれこれ考えても分からないことなので、解決法としてはひとつしかなかった。

 家に帰り着き、庭に自転車を止める。葬式が終わってそれなりの時間が経っていたが、家の中に明かりは付いていなかった。

 全員が顔見知りの村で、家の戸締まりは必要ない。田舎特有の謎の信頼に、鍵の掛かっていない引き戸を開けた。

「ただいま」

 案の定家の中はしんと静まり返っていて、おかえりと返事はない。土間に母親の靴はなく、まだ手伝いから帰っていないようだった。

 あっちの方の手伝いは、大変そうだもんな……。

 祭壇の組み立てなどはないにしろ、村人全員の食事の用意と給仕。それからそれらの片付けに、掃除をしてとなると、時間は掛かる。
 母親だけではないとしても、やることは多いだろうなと考えながら、靴を脱いで廊下に上がった。

「カチ、カチ、カチ……」

 居間にある古い壁掛け時計が、音を鳴らし秒を刻む。
 時刻は18時10分。疲れて帰ってくるだろう母親が、今日くらい楽が出来るように、夕飯を作ることにした。

 台所に入って、冷蔵庫を開ける。焼きそばの麺があったので、メニューは即決まりした。


 具材と麺を炒め、ソースの粉を振りかけていると、ただいまーと声が聞こえた。

「おかえり」

「えー、柊雨。夕ご飯作ってくれてるの?」

 台所にやって来て、隣に立った母親は目を丸くさせながら、フライパンの中身を見つめる。

「うん。俺でも作れる焼きそばがあったから」

「それでもありがとう。今日も疲れたから、夕飯どうしようって思ってたのよ」

 嬉しそうに微笑む顔を見て、焼きそばを作って良かったと思う。

「もう少しで出来るから、テレビでも見てなよ」

「そうさせてもらうね。お箸とお茶は用意しておくから」

「うん」

 台所から出ていく母親を見て、火を止める。別のフライパンを出して目玉焼きを作り、盛り付けた焼きそばの上に乗せて完成した。

 青のりはなかったのでかつお節だけ振り、お皿を母親の前に置く。

「美味しそ~。いただきます」

 自分も向かいに座り、いただきますと手を合わせた。