コトリカゴ

「村から出ていくのに、白川さんに報告しなきゃいけないって言うのもおかしな話だよな。それに許可取りが必要かね?」

「普通はいらないよな」

「マジで、そう」

 あーあと、今から憂鬱だとばかりに、智喜は嫌そうなため息を吐く。

 ――村長と言う立場はこの村において、絶対的な権力があった。


 いわゆる市役所、の代わりが村長だった。
 村を出て行く際は、それを報告しにいかなければならない。その反対もそうで、移住する際も白川さんの許可が必要になり、莎菜のお父さんは住めるまで毎日訪問したらしい。

 誰かが亡くなった時、結婚する時も報告しにいく決まりがある。
 またこの村には駐在する警察官がいない。だから何か事件等があった際も、まず白川さんに伝えなければならず、村長には異様な実権があった。


 仰向けだった智喜は、肘を付いて横になる。それから素朴な――いや、核心を突いた疑問を口にした。

「ここまでして村を存続させたい理由って、何かあんのかな? 村を村人を守るって言うよりかは、縛り付けてるだけにしか思えないし。村から出させないようにして、存続していくって言ってもさ。このままだと、数十年後には廃村になると思うんだよね」

 それは何とも正論だった。

「よそ者を嫌ってる以上、村に人は来ないからな。莎菜達は本当に例外だと思う」

「村の住人の半分以上がじいちゃんばあちゃんで、若い人間は俺達4人しかいない。正直、この村で住み続けようとは思えないだろ? 結婚するとして、奥さんをこの村に呼ぼうとは思えないし」

「まぁ、そうだよなぁ……。このまま何も変わらなかったら、徳里村はなくなると思う」

 子孫繁栄が望めないなら、存続は絶望的だろう。白川さんが権力を握っている以上何も変わらない現実に、村がなくなる未来が想像出来てしまう。


「話変わっちゃうけどさ。柊雨んとこのお父さん、まだ帰って来ねーの?」

 ぼんやり遠くに馳せていた俺は、智喜の声に我に返る。

「あ、あぁ。母親に聞いても、いまいち曖昧でさ」

「出張なんだっけ?」

「んー、そうらしい」

 あまりに漠然とした受け答えに、思わず苦笑いをしてしまう。

 父親はある日突然として。家に帰って来なかった。確かその日の朝はいつものように、いってらっしゃいと見送ってくれたはずだった。
 しかし夜になって帰って来ず、母親から「急に出張が決まって、しばらく帰ってこないみたい」と言われた。

 出張がそんな突然に決まるものなのか? と不思議に思ったが、その時はそうかと納得した。父親が帰ってきたら真相を聞けばいい。
 だが詳細も分からないまま、もう1ヶ月が経ってしまった。