コトリカゴ

◇ ◇


 ――雪弥が帰っていき、それを柊雨と智喜が追い掛けて行った頃。
 雪弥の母親は、ただひたすらに白川に謝り続けていた。

「すみません。ほんまにすみませんでした」

「もうええわ。せやけど、教育はしっかりしておいて欲しいもんやなぁ」

 悪態を吐いても、それに逆らう者は誰もいない。だからこそ強気な白川は、今にもボタンが弾けそうなシャツを着直した。

 もうこの場からいなくなった雪弥の後を睨むように見て、ぼそりと呟く。

「――次はお前が死んだらええのになぁ」

「白川さん」

 そこに村の男の人がやって来て、入れ替わるように雪弥の母親がこの場を離れる。

「お疲れ様でしたなぁ。今うちの家内にご飯用意するよう伝えましたんで、中に入って下さい」

「あぁ。ありがとう」

「お勤め終わりましたし、一緒に1杯どうですか?」

「せやな。ビールも」

 貰おか、と言おうとした白川の背筋に、突然寒気が襲う。背後ぴったりと。黒い何かが立った。


「――――ちょうだい――――」


 幼稚園くらいの子供の背丈。
 乱雑に切られたボサボサの髪の毛。
 声からして女の子だろうが、黒く塗り潰された影はその全貌がハッキリと分からない。


 途中で言葉を切り、ひっ……! と顔を引き攣らせて固まる白川に、疑問の声が掛けられる。

「白川さん?」

「あ、あぁ何でもない。ビール貰うわ」

 ハッと我に返った白川に、分かりましたと言って村の男は家に戻っていく。
 もう背後にあった冷たい気配はなくなっていて、はぁとため息を吐いた。

「もうそんな時期か。用意せんとあかんなぁ」

 悩ましげな表情で、あれこれと頭に浮かばせていく。

「食べ物と水と、人形買いに行かなあかんのか。後は――」

 白川の無機質な視線を向ける先には、仲良く遊んでいる莎菜と維織の姿があった――。