コトリカゴ

「村を出て行った裏切りもんが、何しに帰って来たんやろうな? あー目障りやわ」

「あぁ?」

 さすがの暴言に不快が吐かれる。ゆき兄が立ち上がると、簡単に白川さんを見下ろした。

「俺だってこんな村、帰って来たくもねーわ。でもあんたが面倒だからだろーが」

「はぁ? 私が面倒やて? 意味が分からんし、私を言い訳に使わんといてくれるか。それに今更村の為とか、都合良すぎて虫酸走る」

 その一言は、ゆき兄の怒りのスイッチを押してしまった。激昂に瞳孔が開き、ぐいと白川さんの胸ぐらが掴み上げられる。

「村長だか何だか知らねーが、調子に乗ってんじゃねーぞ」

 低い声が逆に、怒りの凄みを感じさせる。

 一触即発。今にも殴られそうな白川さんだったが、丸い顔に不敵な笑みが湛えられた。

「ええんか? 村には家族がおるんやで?」


「――雪弥っ!!」

 そこに騒ぎを聞き付け、ゆき兄のお母さんが外に出てきた。
 ぱっと、胸ぐらから手が離れる。

「白川さん、すみませんでした。息子にはよぅ言うておきますので」

「ほんま。頼みますよ」

 何度も何度も白川さんに頭が下げられる。ゆき兄は吸っていた煙草を落とし、靴で火を消すと、背を向けて歩き出した。

「ゆき兄!」

「帰るわ」

 叫んで呼ぶが、こちらを振り返ることなく帰っていってしまう。

「柊雨君、維織は大丈夫だから。行ってあげて」

「ごめん。ありがとう」

 状況を汲み取ってくれた莎菜にお礼を言って、智喜を呼びに行く。まだ居間で、祭壇の台を解体している最中だった。

「智喜! 行くぞ!」

「え?」

 突然誘われて意味の分からない頭の上に、たくさんのはてなマークが浮かんでいる。

「すみません。少し智喜を借りて行きます」

 一緒に片付けをしていたお父さんに断りを入れて、手を取って外に連れ出した。

「ちょ、柊雨。どうしたんだよ?」

「訳は後で話すから! 今はとにかくゆき兄のところに行こう!」

「ゆき兄?」

 ゆき兄がどうしたのか? 訊きたそうなことは重々分かったが、今は一刻も早く追い付きたかった。

 柿木の家の敷地内でその姿を見付け、ほっとする。鍵を挿し、バイクに乗ろうとしているところだった。

「ゆき兄!」

「おー。柊雨と智喜」

 先程の苛立ちはまだ残りつつも、笑って答えてくれる。未だ訳の分からない智喜だが、急に帰ろうとしている様子から、何かあったことは察したようだった。