コトリカゴ

 日に日に莎菜達家族の印象が変わってきているのは、俺達家族のおかげだと、いつも言ってくれる。

 確かに引っ越しして来た日に、俺の両親は挨拶をしに行っている。それをきっかけにご近所付き合いが始まり、莎菜のことを好きになる一端ともなって――付き合うことになった今、それまでの関係から信頼を置いてもらっている。と言う訳だ。

 それでも良く思っているのは、ほんの一部の人達だけ。
 まだまだ莎菜達家族に向けられる視線は冷たい。

 家から漏れ出て聞こえる声は遠い。虫の鳴き声だけがふたりを包む夜の中に流れて、背中に腕を回したまま、莎菜が落ち着くのを待った。


「――イチャ付くのは、何処かよそでやってもらえますかぁ?」

 突然暗闇の中から声がした。驚きに、ふたりの体がバッと離れる。莎菜を守るよう少し前に立ち、声がした方に顔を向けると、同じように土手に座っている人がいた。

 夜目が利いてきたとは言え、明かりがない周囲はさほど見えない。視界を凝らしていると、ぼんやりと煙草を吸うその人物の姿が見えてきた。
 目を細めて見る俺に、よっと右手が上げられる。

「……え?」

 今度、目は大きく開く。
 そこにいる人物に覚えはあった。でも信じられなかった。

 慌ててスマホを出しライトを付ければ、疑念は確信に変わった。

「ゆき兄……」

 呆然と名前を呟くと、ゆき兄と呼ばれた男の人がこっちに来て、俺の肩に腕を回してきた。

「ひっさしぶりだな~、柊雨! 元気にしてたか~?」

 わしゃわしゃと頭を撫で回される。はいと答える後ろで、莎菜がぽかんとしていた。

「それで? この子は?」

「俺の彼女だよ」

「おーおー。柊雨も隅に置けない男になったなー」

 このやろーと髪の毛がボサボサになるくらい撫で回されて、ゆき兄が離れる。ある程度髪を整えてから、改めて莎菜に紹介をした。

「この人は柿木雪弥(かきぎ ゆきや)さん。柿木さんのおばさんとこの息子さん。それでゆき兄、彼女は池田莎菜さん」

 右手を差し出すと、莎菜が慌てて頭を下げる。こんばんはと言う声は緊張を帯びていて、それはゆき兄の見た目のせいかもだった。

 前髪が長めのウルフカットに、暗がりの中でも分かる程の明るい金髪。右にひとつ、左にふたつのピアス。
 そしてふぅーと煙草の煙を吐く姿は、初対面からすれば少し怖いお兄さんに見えるだろう。


 ――ゆき兄はこの村の出身で、4歳年上の人。ひとりっ子の俺と智喜からは、本当のお兄さんのような存在だった。
 学校が一緒だったからお世話になったし、悪い遊びはこの人から全て教わった。
 ゆき兄も何かと俺達を構ってくれて、大好きな人だった。

 けれど高校を卒業と同時に、この村を出ていってしまった。

 それから会っていなかったので、かれこれ4年振りになる。