コトリカゴ

「――リィ。リィー……」

 虫の鳴き声と、家の中から漏れ出てくる騒がしい声が混じって聞こえる庭に出て、玄関から離れた場所で腰を下ろす。
 庭の傍に畑があり、そこと庭を区切る為の土手の上。じいちゃんばあちゃんが休憩用に使っていた丸太があることを知っていて、そこに並んで座った。

 夏至前と言っても、田舎の夜はまだ寒い。

「寒くない? 俺の上着着る?」

「ううん。大丈夫だよ」

 暗くてハッキリとは見えないが、笑ったことは分かった。
 大丈夫とは言われたけど。莎菜の手を取り指を絡めて握って、自分のポケットの中に入れた。

「どうしたの?」

 それを合図に。元気のないことを訊ねる。くすと苦笑いを零してから、莎菜が喋り出した。

「朝とは立場が逆転しちゃったね」

「だな。今度は俺が、莎菜の悩んでることを共有したい」

「うん……。ありがとう」

 お礼の言葉と共に、握る手にぎゅっと力が込められる。

「……白川さんがお父さんのことを責めてたでしょ? 嫌だなって思って」

 あの出来事が原因かと理解する。
 自分の親が皆の前で責め立てられる場面など、子供が見たい訳がない。

「遅れて来たのは申し訳ないことだと思うけど。遅れた理由は、明日のお葬式の有給を取る為で、その分の仕事を終わらせてきたからなのに。理由も聞かないで、あんなに言わなくてもいいじゃない……」

「うん。そうだね。俺もそう思う」

 全くもって同感しかなかった。莎菜の言い分は正しいと思うし、間違っていないとも思う。

 ただ白川さんのことをよく思っていないから。莎菜は彼女だから。と言った私情は、多少含まれているとしても、だ。

「こんなこと言っちゃダメだろうけど……。私、あの人苦手……」

 声のトーンが下がり、落ち込んだ顔が下を向く。
 俺は何も言わずに、莎菜の体を抱き締めた。慰めるように、背中をぽんぽんと優しく叩く。


 ――この村は異常な程に、よそ者を嫌う。

 村の住人はもちろん。村長である白川さんは、その筆頭と言ってもいい。

 莎菜達家族は、中学2年生の時に移住をしてきた、本当に稀なケースだった。

 莎菜は元々体が弱く、喘息が酷かったらしい。それを良くする為に自然の多い場所に引っ越ししたいと、この村に白羽の矢が立てられた。

 だが当然、この村の出身ではないよそ者を、白川さんは受け入れることを良しとせず、拒否した。
 しかし莎菜のお父さんの粘りと根気に負け、渋々了承。そうしてこの村で暮らすことになったが、未だ白川さんは莎菜達家族を疎ましく思っている。
 それは他の住人も同じで、横井のじいちゃんのように嫌う人も数人いると言うのが現状だった。

 ただ最初はそうでも、松原のばあちゃんのように受け入れてくれる人もいて――それはひいては、莎菜のお父さんが快く受け入れてもらえるよう、尽力しているからだと思う。