途中からつまらなくなった維織がぐずり出すと言うことはあったものの、無事に焼香が終わる。閉まっていた棺が開けられ、花を入れる時は楽しそうにしていた。
俺も菊を受け取り、顔の近くにそっと置く。目を閉じるじいちゃんの顔は――穏やかそうには見えた。
口からは大量の血が吐かれ、目や鼻、耳からも血が流れていたが、綺麗に拭き取られたのか。その跡はなかった。
顔にも模様が出ていたが、消しゴムで消されたように跡形もなく。薄い死化粧の白い顔に、苦しみはなかった。
これを見れば、やっぱり昨日のことは夢だったんじゃないかと思える。誰もがこのじいちゃんを見て、あんな恐ろしいことがあったとは思わない。
ただ俺が悪夢を見ただけで、あんなことは起こってすらいない――と。
けれど未だ鮮明にこびり付いた記憶に、夢だとは到底思えなかった。
じいちゃんの顔を見て、棺から離れる。他の人のやり取りを見守っていると、玄関から物音が聞こえてきた。
「遅れて申し訳ございません」
そう言って居間に走ってきたのは、莎菜のお父さんだった。仕事終わり、急いでやって来たのか、息が乱れている。
「パパ!」
父親の姿に維織が駆け寄る。よしよしと頭を撫でてから、息子さんの元に向かった。
「途中からの参加となり、申し訳ございません」
「いえ。来て下さってありがとうございます」
きっと息子さんは、父親に会うのは初めて。と言うよりそもそも莎菜達家族とは、今日が初対面になる。
最初こそ訝しい表情をしたが、息子さんがお礼を言う。その様子を見ていた白川さんが、不満そうに顔を顰めた。
「お宅ねぇ、大事な通夜って言うのに、遅れてくるなんて礼儀なってへんのちゃうか?」
「すみません。どうしても終わらせないといけない仕事がありまして」
「仕事ねぇ。それで遅れてきたらええわな。だからよそもんはいらんねん」
皮肉と嫌味を言う白川さんに、莎菜の父親は触りなくすみませんと謝る。
「マジあのデブ、腹立つよな」
同じく花を入れ終えた智喜が俺の隣に立ち、こそっと小さい声で呟く。聞こえたら面倒だぞとも思ったが、俺も同じ気持ちだったので、だなと同意を返した。
「明日は有給を取れましたので、葬式には一から参列させて頂きます」
「それは当たり前やろ」
「まぁまぁ白川さん。そう目くじら立てやんでも」
阿切さんが間に入ると、白川さんはふんと鼻を鳴らす。納得はしてないが、ここいらで勘弁してやろうと言う感じだった。
「まぁせやな。来てへんもんよりかはマシやな」
皆に聞こえるくらいの声量で言って、ちらと目を向ける。
その視線の先にいたのは、俺の母親だった。
俺も菊を受け取り、顔の近くにそっと置く。目を閉じるじいちゃんの顔は――穏やかそうには見えた。
口からは大量の血が吐かれ、目や鼻、耳からも血が流れていたが、綺麗に拭き取られたのか。その跡はなかった。
顔にも模様が出ていたが、消しゴムで消されたように跡形もなく。薄い死化粧の白い顔に、苦しみはなかった。
これを見れば、やっぱり昨日のことは夢だったんじゃないかと思える。誰もがこのじいちゃんを見て、あんな恐ろしいことがあったとは思わない。
ただ俺が悪夢を見ただけで、あんなことは起こってすらいない――と。
けれど未だ鮮明にこびり付いた記憶に、夢だとは到底思えなかった。
じいちゃんの顔を見て、棺から離れる。他の人のやり取りを見守っていると、玄関から物音が聞こえてきた。
「遅れて申し訳ございません」
そう言って居間に走ってきたのは、莎菜のお父さんだった。仕事終わり、急いでやって来たのか、息が乱れている。
「パパ!」
父親の姿に維織が駆け寄る。よしよしと頭を撫でてから、息子さんの元に向かった。
「途中からの参加となり、申し訳ございません」
「いえ。来て下さってありがとうございます」
きっと息子さんは、父親に会うのは初めて。と言うよりそもそも莎菜達家族とは、今日が初対面になる。
最初こそ訝しい表情をしたが、息子さんがお礼を言う。その様子を見ていた白川さんが、不満そうに顔を顰めた。
「お宅ねぇ、大事な通夜って言うのに、遅れてくるなんて礼儀なってへんのちゃうか?」
「すみません。どうしても終わらせないといけない仕事がありまして」
「仕事ねぇ。それで遅れてきたらええわな。だからよそもんはいらんねん」
皮肉と嫌味を言う白川さんに、莎菜の父親は触りなくすみませんと謝る。
「マジあのデブ、腹立つよな」
同じく花を入れ終えた智喜が俺の隣に立ち、こそっと小さい声で呟く。聞こえたら面倒だぞとも思ったが、俺も同じ気持ちだったので、だなと同意を返した。
「明日は有給を取れましたので、葬式には一から参列させて頂きます」
「それは当たり前やろ」
「まぁまぁ白川さん。そう目くじら立てやんでも」
阿切さんが間に入ると、白川さんはふんと鼻を鳴らす。納得はしてないが、ここいらで勘弁してやろうと言う感じだった。
「まぁせやな。来てへんもんよりかはマシやな」
皆に聞こえるくらいの声量で言って、ちらと目を向ける。
その視線の先にいたのは、俺の母親だった。

