コトリカゴ

 思い詰めた声色で言ってしまったが、智喜には気付かれなかったよう。きょとんとした顔で答えられた。

「病気、って話だけどなぁ。あ、柊雨、じいちゃんの顔見に行った?」

「うん。昨日、学校帰りに行ったんだ」

「え? じゃあそん時はまだ元気だったんだ?」

「元気……と言うか。まだ生きてはいたよ」

「そっかぁ。いや実は俺、行けなかったんだよ。土日のどっちか、部活前に行こうと思っててさ。まさかこんな早くに死んじゃうとは思わなくて」

「そうだよな」

 そう答えながら、じゃあ智喜は ”あれ“ を見ていないのか、と思う。

 目を伏せカレーを食べる手を止めていると、何かを感じさせてしまったようだ。

「じいちゃん家で何かあったのか?」

「え?」

 予想外の問いに、勢いよく顔が上がる。前を見ると、智喜はじっとこちらを見ていた。

「いや……」

 言葉が詰まり、ついそう言ってしまう。でもこんな受け答え、何かあったと言っているようなものだった。

 昨日のこと……。智喜に話してもいいのか……?

 実際にこの目で見た。嘘ではない。
 けれど現実離れ過ぎて、自分でもまだ理解し切れず、信じられない気持ちもあった。

 ――智喜は数少ない、いや唯一の友達だった。
 お互いひとりっ子で、あの小さな村の出身と言う共通点は、俺達が思っている以上に強い繋がりだった。

 もちろん学校に、他に喋る人はいる。けれど智喜以上だと思える人はいない。

 心から信用出来て、心置かない友は、彼しかいない。

 そんな智喜には莎菜のことだって相談に乗ってもらったし、俺の話を端から嘘だと言って笑うような奴じゃないことも知っている。

 だからこそ。話したい気持ちはあった。
 話して、智喜の意見も聞きたかった。

 あれは何だと思う? と――。

 彼を信頼する気持ちが強く出て、あのさの形に口が開く。と、智喜じゃんの声に、空気が変わった。

「食堂にいんの珍し~」

「だろ? 今日はそう言う日」

 声を掛けてきた友人に対し、智喜はダブルピースして答える。やって来たふたりはきっと、部活仲間だろう。

「今日の部活さ」

「あ、わり。今日と明日部活行けねーんだ」

「え? マジ? 何で?」

「ちょいと身近の人が亡くなってさ――」


 3人での会話が始まり、ひとりになって我に返れた。話そうとしていたことを思い留まることが出来て、よかったと思う。

 あれは確かに、現実に起こったことだ。
 でも智喜に話すのは止めておこう。

 ――口止めをされていた。

 昔の人は大きな病気や、我が家の問題を、家の外に出すことを嫌う傾向があるのも事実だった。

 けれど今回のことは、それだけでは収まらないような気もして。口止めをされていたと言う一点からも、知らぬが仏だと思った。

 ……変に話をして、智喜を巻き込みたくない。

 万が一にもそんなことがないように。

 今一度、自分の中だけにしまっておくことにした。