コトリカゴ

「――君」

「柊雨君!」

 自分を呼ぶ大きな声にハッとなり、慌てて我に返る。

「莎菜、どうしたの?」

「どうしたのって、大丈夫?」

 ――翌日。莎菜と一緒に、いつも通りの電車に乗っていた。莎菜はドアの前に立ち、その前に手すりを持って立っていたのだが――ふと気付くと、心配そうに覗き込まれる視線が目の前にあった。

「大丈夫って何が?」

 にこと微笑んで訊き返すが、莎菜の心配そうな表情は変わらない。

「何か今日ぼーっとしてるよ? 体調でも悪い?」

「ううん。全然元気だよ」

「じゃあ何かあった?」

「いや。特に何もないけどなぁ」

「……ガレットってさー」

「美味しいよな。卵の黄身とチーズが合わさって」

「違いますー! 私が話していたガレットは、キャラのガレット君! ほら柊雨君、話聞いてないー」

 もぉと拗ねるのを見て、あははと苦笑する。上の空だったことを認めて観念し、ごめんと謝った。

「ちょっと考え事してた」

「それって、私が聞いても大丈夫な内容?」

 そう訊かれ、一瞬考えてしまう。
 タタンタタンと鳴る電車の音が沈黙の間を流れ、莎菜は哀愁帯びた表情で俺のことを見上げた。

「話せないことなら無理には聞かないよ。でも柊雨君の悩みや、苦しいことがあるなら、私も一緒に背負いたいなって思う」

「莎菜……」

「彼女でしょ? って言うつもりはないけど、柊雨君は私の大好きな人だから」

 どこか悲しそうでありながらも、にこと笑う。
 ここが電車の中じゃなければ、間違いなく抱き締めていた。

 彼女にそこまで言われては、話さないことが逆に気が引けた。だから静かに話し出す。

「……莎菜のことを信用していない訳じゃないんだ。家に電話があったと思うけど、横井のじいちゃん、亡くなっただろ?」

「あ……うん。そうだね。今日の朝、電話があったよ」

「そのことを、ちょっと考えてた」

 全部は話さなかった。いや、話せなかった。
 でも嘘を付いている訳ではなくて、触れていい部分だけを話す。

「柊雨君はおじいさんと、仲が良かったんだもんね。だから今回のことは、すごくショックだよね」

「うん。中学くらいから全然会ってなかったけど、思うことはやっぱりあるから」

「そうだよね……」

 徐々に声のトーンが下がっていき、視線が下を向いてしまう。

 横井のじいちゃんが莎菜をよく思っていなかったように、莎菜もじいちゃんのことを苦手としていた。
 だからこれ以上はもういいと、話題を変えた。


「それでさっきの話だけど。ガレット君がどうした?」