コトリカゴ

「芳野です。じいちゃんの顔を見に、お邪魔させて頂きました」

「ほら、柊雨君や。お父さんが何かと構っとった子おったやろ?」

 すかさず娘さんが説明を加える。最初こそ訝しく細めた目で見られていたが、何かを思い出したのか、おぉと声が上がった。

岩永(いわなが)んとこの子と、仲良かった子か!? おーおー、えらいでかなったなぁ」

 智喜との連れだったと分かると、男の人の顔が明るくなる。

「はい、そうです。ご無沙汰しています」

「えっらい立派なイケメンになりおって。そうかぁ、そりゃ俺も歳取る訳や」

 はははと笑う男の人は、処理のされていない無精髭に、ベリーショートに刈り上げられた髪には白髪が多かった。娘さん同様覚えはなかったが、さっきの流れからして、この人は息子さんだろうなと思った。

「来たってくれて、ありがとうなぁ。気ぃ付けて帰りや」

「はい。ありがとうございました」

 頭を下げて今度こそ帰ろうと、背を向けた直後だった。


「――いやああああぁ!!!」


 突然。奥から切羽詰まった、ばあちゃんの悲鳴が聞こえてきた。
 あの大人しいばあちゃんが、こんな大きな声を出すなんて。

 驚きと、何事だ? と、この場にいた3人の動きが一瞬止まる。

「やめてー!! お爺さん!」

 次の悲鳴が聞こえてきた時。ハッと我に返った息子さんが、真っ先に走り出す。娘さんがオロオロと廊下の奥と、俺の方を交互に見やっていれば、息子さんの叫び声が聞こえてきた。

真由子(まゆこ)っ! はよ電話せぇ!!」

 その声にハッとなり、娘さんが慌てて居間に走っていく。

「親父、やめー! お婆さんやて分からんのかっ!?」

「ああぁぁ!! お爺さん!!」

 ひとり玄関に取り残され、聞こえてくるただならぬ声。バタンバタンと暴れているような音も聞こえてきて、緊急事態だと言うことはすぐに分かった。
 そうなれば居ても立ってもいられず、気付けば履いたはずの靴を脱ぎ捨て、奥へと駆けていた。

「じいちゃん!」

 和室に飛び込み、目の前で繰り広げられていた光景に、あったはずの勢いは、驚愕に止まってしまう。

 ――苦しんでいたはずのじいちゃんは。
 横になるだけで動けなかったはずのじいちゃんが、布団から出ていた。

 しかし白目を向き、優しかった面影はどこにもなく、人が変わった形相で――


 ばあちゃんの首を絞めていた。