コトリカゴ

 ……何だ……。これ……?

 声に出なかったものの、異様な光景に目が奪われる。

 黒い模様は植物の蔦のようにも。何かの紋様のようにも見える。それが腕全体に。手の甲、指先にまで広がっていた。

 まるでタトゥーが彫られたような。
 いや、痣みたいに表面に浮かび上がってきたような。

 どちらとも分からない異様な模様は初めてで、一瞬時が止まってしまう。力尽きた腕がパタと落ちたことでハッと我に返り、慌てて話し掛けた。

「じいちゃん、また来るよ」

 そう言って、立ち上がる。

「大変な時にお邪魔しました。ありがとうございました」

 ばあちゃんに話し掛けてもきっと、意識はじいちゃんに向けられたままだろうと思い、訪問のお礼は娘さんに伝えた。

「いいんよ。むしろお礼を言うんはこっちやで。来てくれてありがとうね」

「いえ」

 頭を下げて、和室から出る。その時ちらりとそっちを見たが、布団の上にあるじいちゃんの腕の模様は、やはり間違いなく存在していた。

 あまりに衝撃的な光景にも関わらず、ばあちゃんは取り乱すでもなく、隠すこともなく、そのまま座ったまま、じっと見ているだけ。
 娘さんも触れてこなかったので、それについて訊いてはいけないんだろうと察した。

 でも……あれは何なんだ?
 何か病気の症状?
 だとしたらあんなに酷い状態、普通に考えれば入院になると思うが……。

 娘さんに見送られ、玄関に向かう廊下を歩きながら、考える。先程までいた和室の風景を思い出すと、引っ掛かることもあった。

 仮に末期の病気だとしても。
 病院に行っていれば、何かしらの薬はもらえるんじゃないだろうか?
 抗生物質や痛み止めとか。
 もしそれらがあればすぐ服用出来るよう、手元に、身近に、薬やそれを飲む用の水を常備していそうなものなのに。
 それらは一切なかった。

 ただ和室に置いてなかっただけで、何処かにはある?
 それとも薬はもらわなかったとか?
 もらっていたとしても、じいちゃんが飲める状態じゃないから?

 驚愕的だったからこそ、色々な疑問が出てきたが、それらが口から出ることはない。


 玄関に着き、靴を履いてから、娘さんの方に体を向けた。

「今日は突然にすみませんでした。でもありがとうございました」

「ううん。お父さん、もう長くないやろけど……。また来てくれると嬉しいわぁ」

「はい。またお邪魔させて頂きます」

 答えて失礼しますと帰ろうとした時、右側の廊下から誰かがやって来た。娘さんと同じくらいか、それより年齢が上の男の人が、いることに気付いた俺のことを仏頂面で見る。

「誰やぁ、お前?」