コトリカゴ

 この村に着いた時、まだ明るかった空も、莎菜の家に寄っている間に日が暮れ始めていた。まだかろうじて道は見えたが、明かりがあった方が心強い。
 ハンドルの傍にあるライトを付けて、一本道を走った。

 莎菜と別れてから自宅には帰らず、横井のじいちゃん家に向かっていた。

 同じ村に住む同士。家に着く前、莎菜も一緒に――と言う考えはなかった。
 初めからひとりで行くつもりだった。横井のじいちゃんは、莎菜を含め、池田家のことを良く思っていないことを知っていたから。


 智喜から話を聞いて、きっと早い方がいいと思い、家とは逆方向の道を走る。5分程走って、黒瓦の屋根の智喜の家の前を通り過ぎる。
 程なくして、年季の入った一軒家に着いた。

 智喜のところと近所と言っても、都心の住宅街のように真隣にあると言った訳ではない。300m程は離れていて、広い庭に見慣れない車が2台止まっていた。
 邪魔にならないところに自転車を止め、玄関口の前に立つ。

「こんばんはー」

 ガラガラと玄関の引き戸を開けて、挨拶する。インターホンなどはないので、口で呼び掛けるのが普通だった。

 しかし返事はない。

 ……靴があるから、誰かはいると思うんだけどな。

 土間には脱いだ靴が数足あるので、もう一度声を出した。

「こんばんは。芳野(よしの)です」

 広い玄関。声が響いた後、しんと空気が静まる。

 ……危ないって言っていたし、来客に対応出来る状態じゃないのかも知れないな。

 反応がないので、きっとそうだろうと思う。
 また近い内に来ようと踵を返そうとした時、誰かがこっちに来る足音が聞こえてきた。

「誰なん? こっちは今大変なんやけど……」

 機嫌悪そうに現れたのは、50代くらいの女の人だった。歳以上に頬のたるんだ顔がしかめられていたが、俺を見るなり、あれ? と言う表情になった。

「えっと、確か……。しゅ、う君。だっけ?」

「はい、そうです。芳野柊雨です」

 初めて見る女の人に頭を下げる。しかし女の人からの反応は、明るいものだった。

「やー、大きいなったね! もう何十年ぶり? あの頃は幼稚園か小学生で、可愛かったのにねぇ」

 明らかに俺のことを知っている話ぶりに、つい訝しい目をしてしまう。それを見て、女の人はふふと笑った。

「覚えとらんのも無理ないわ。私その頃に村出たしなぁ。今もう高校生なん?」

「はい。高校2年生です」

「ほんまにー? ほんま月日が経つの早いわぁ。柊雨君背もおっきぃなって、男前になったねぇ」

「いえいえ、そんな。でもありがとうございます」

 会話をしながら、きっとじいちゃんの娘さんだろうと推測する。記憶を遡っていれば確かに、その頃大人の女性がいたような気がしてきた。