君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた


「……天野くん、天野くんってば! ちゃんと聞いてる?」
 左隣から少し怒った声に、はっとして見返す。望月が両手を腰に当てながら僕を睨みつけていた。
「あ、ごめん」
「もー、ぼーっとしてばかりなんだから! 大丈夫? 授業についてこれてる?」
 秋は夕焼け時間が短く、瞬きする間に星が現れ始める。
 今日も同じ教室で机に向かっていた望月と僕はクラスでは一言も会話をすることなく、日没を合図にこの河原で落ち合った。
 望月の思い付きのように始まった天体観測は意外にも続き、片手では数えきれない回数に達していた。最初のうちは望月の邪魔じゃないかと遠慮していたが、
「天野くん、あんな素直に星空に感動してるんだもん、邪険になんか出来ないよー。それに、教え甲斐がありそうだからさ」
 愉快そうな返事に僕も気を遣うのをやめた。
 ものの数秒でオリオン座を見付けられるようになった僕に嬉々として個別指導する熱血教師っぷりは、教室での大人しい姿とは似ても似つかない。
 どうにも捕らえどころがないというか、変わってる。
 ふと望月の手元を見下ろすと、何やら円盤状の紙を持っている。
「それ、何?」
「星座早見表だよ。星座を見つけやすくするための地図。これも理科の授業で使ったはずなんだけどなぁ、覚えてない?」
 差し出された楕円の中にも夜空が広がっていた。星と星が線で結ばれて色んな形を作り、牡牛、牡羊、アンドロメダと、たくさんの名称が記されている。
「なんだ、そんな便利なものがあるなら先に教えてくれればいいのに」
「いやいや、まずは自力で発見するのが醍醐味だから!」
 今度は僕が呆れて見返すと、冷たい風が吹き抜けていった。薄闇の中でセーラー襟から覗く首元が白く浮かぶように見え、黒髪が淡い月の光にきらめいていた。
「望月って、天使の輪っか、あるのな」
「……ええと、急に何言ってるの?」
「望月の頭、艶があって、それが天使の輪みたいに見えるんだよ。望月、髪がすごく綺麗だからショートカット良く似合うな、って」
 授業態度の悪い僕に吊り上げていた両目が、急に丸くなる。
「ち、近いよ⋯⋯!」
「え?」
「顔、近過ぎだってば!」
 しまった、と気付いた時には、ぷい、とそっぽを向かれてしまった。
「ごめん⋯⋯! わざとじゃないんだ、僕」
「……いや、ちょっと驚いただけ⋯⋯こっちこそごめん、忘れてた⋯⋯。ただ、やっぱり天野くんて……」
「僕が、何?」
「いや、そう言うとこかな、って思って」
「ごめん。どう言う意味?」
 すると望月はヒントもくれず、「そっか」と一人で納得したように黙った。夜空でキラキラと瞬く星達は楽しそうに会話しているのに、地上の僕達は暫く無言だった。
 ――何か悪いことを言ったかな。
 どうしてだろう。僕が誰かと会話を始めると、最初はスムーズにいくのに暫くしてから相手の反応が変わってしまう。理由は分からない。
 不意に、「そういう所だ」と指摘してくる太谷の声と、二年四組の教室の景色が思い浮かんでくる。