君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた

 振り返ると、草叢越しに中肉中背の男が立っていた。驚いた表情も昔のままだ。
「⋯⋯どうして、俺だって分かったんだよ⋯⋯?」
 堤防沿いの外灯の青白い光が痩せた顔とくたびれた背広を照らしている。俺を認めるなり即座に笑顔を作れる所は、さすが元キャプテンだ。
「何だ。現れたのが俺で残念がるアマの顔を見たかったのにな」
 なだらかに流れる矢川の傍、ずっと会いたかった相手と向かい合い、答える。
「『いつもみたいに、また、会いたい』――この言葉が引っかかったんだよ」
「それが何だよ?」
「簡単な理由だよ。矢川(ここ)での天体観測、俺達はいつも約束なんてしてなかった。それに、望月のあの性格ならそんな表現なんてしないはずだ」
「へぇ⋯⋯、俺達、ねぇ」
 作り笑顔はあっさり消え、皮肉そうに顔をしかめて俺を見遣る。
「随分と仲が良かったんだな。それで? 俺の誘いだと分かって、何で来たんだよ。同窓会、まだやっている最中だろ? 有名人なアマなら皆黙ってなかっただろうに」
「このメッセージ読んだら来ない訳にいかないだろ。それに、太谷こそ近藤の下で働いているのに、参加しなくていいのか」
「……はは、そんなことまでバレてるのか」
 マンツーマンでのシュート特訓ぐらいの距離があるのに、その乾いた笑い声は北風に乗って俺の耳に届く。
「いいんだよ、派遣だし。あの会社もう辞めるつもりだから。それとアマ、悪いけど、美誠なら来ないよ。あいつ、今、妊娠中なんだ」
 望月美誠。
 中学二年の僅かな冬の間、この河原で一緒に夜を過ごした相手を下の名前で呼ぶ。
「そうなんだ」
「随分とあっさりした反応だな。その相手が俺だって思わないのかよ?」
 挑発には乗らない。黙っていると、
「まさかあいつが結婚するとはね⋯⋯。父親の浮気と母親のメンタル不安で家庭嫌いになってたから、てっきり独身を貫くんだと思っていたんだけどな」
 結婚式には出たのか、と訊こうとして、信用している幼馴染だから当たり前か、と即座に頭の中で否定すると、太谷は自棄になって続けた。
「あいつ、高一の時に親が離婚して、やむなく母親の方について行ったんだよ。それもすぐに家出て一人暮らししたらしいけどな。だから俺は高校からは全然会ってない。うちの家とも関わりなくなってさ。母親同士がかろうじて繋がってて、最近聞いた」
「そっか」
 自分でも関心するほど素っ気ない返事になった。太谷が目を丸くする。
「アマさ、今までずっと地元の集まりとか避けて来ただろ? それなのに今回、参加に○付けたハガキ届いた時は驚いたよ。だからてっきり⋯⋯、美誠目当てじゃなかったのか?」
「⋯⋯いいや」
 俺は首を横に振る。
 心外だと言いたげな太谷の表情が、十五年前にサッカーゴール前で退治する姿と重なる。俺は冷静だった。夜目で焦点のぼやける堤防の斜面を駆け降りたように覚悟を決めると、迷うことなく俺はロングパスを蹴る。
「四組のクラスで回っていた女子の投票、そこに望月と俺の名前書いたの――お前だろ、太谷?」