母校の中学校脇には寄り添うように川が流れている。
矢川という名前の一級河川の支流らしく、河川敷はシロツメクサや背の高い草が生い茂って、夏になると地元の子供の間では水遊びするのに良いポイントだ。中学二年の時、日課のように通っていた場所に、俺はある時を境に全く近づかなくなった。
ホテルから乗り込んだタクシーで母校へ向かう途中、サイドミラーに映るオリオン座と月を見つけた。南西の空、大きな体を傾かせたオリオンから少し離れた所で今にも矢を放ちそうな弓の形の月が鋭く輝いていた。
矢川中の校舎脇でタクシーを停め、料金を払って降りる。すぐに土手の階段を登る。
思いのほか、きついな……。
急斜面に足を踏み込むだけで息が切れる。学ランのまま駆け上った頃から十五年も経ったのか、と腰をさする。何とか堤防に登りきり、ジョギングコースを横断して川を見下ろすが、高水敷に人影は一つも見当たらなかった。今度はしっかり革靴の踵を勢いよく蹴りながら急斜面を下る。
……ああ、ここの匂いだ。
懐かしさに鼻が震える。最近はあまり人が立ち入らないのか、伸びっぱなしの草むらに足を踏み入れる。脛をちくちくと刺されながら、枯草を踏む感触が足の裏に響いて心地良い。学ランを着ていた頃が甦ってくる。
目の前に広がる矢川は、何も変わっていなかった。
ぽつぽつと落とす堤防の灯りは頼りなく、月をぼんやりと映す水面は闇のようで、まるで世界に自分一人だけ取り残された気分になる。
星を見つけに、よくここに来た。
誰もいない草原は一人きりになる穴場だったから。
『 ――⋯⋯ん』
突然、背後から音がした。
鈴を鳴らしたような澄んだ高音に、俺は慌てて振り返る。まっすぐに続く河原の先、太陽が隠れてしまった地平線には北風に煽られた草が揺れ、さやさやと鳴っていた。
(何だ、気のせいか)
『あ⋯⋯、くん』
再び、流れ星のように声が瞬いた。黒々と流れる矢川の対岸から飛び越えてくるその周波数は、昔、ここで発せられた音を連れ戻してくる。
『……あ、ま⋯⋯の、くん』
俺を――いや、僕を呼んでいる。
「―――望月?」
顔を上げると、十四歳の、あの夜の続きが広がっていた。
同窓会会場には見当たらなかった、他のどんな星よりも眩しく輝く一等星――かつてクラスメイトだった望月の姿が、今、はっきりと浮かび上がる。
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