君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた


 実家のある駅に新幹線が到着すると、俺は同窓会会場のホテルへと足早に向かった。
 中学生の頃には無かった高層ビルは真新しい塗装料の匂いがする。最上階直行のエレベーターの到着を待っていると、同い年くらいの女性数名がやってきて横に立った。
「あれ、もしかして⋯⋯天野君?!」
「きゃー、相変わらずイケメン!」
 俺はサングラスを外して会釈する。オクターブ声を上げるのは当時喋った記憶のない元同級生だった。メイクが上手になったんだろう顔を順番に眺めると、それぞれが積んできた年月が見え隠れしていた。すると、集団の後ろで控えめに笑う小柄な女性の姿があった。
 品のある水色のワンピース姿はさり気なくお洒落で、柔らかく微笑みかけてくる。
「⋯⋯村瀬さん。久しぶり」
「久し振り。天野くん、やっぱり俳優さんしているだけあって、昔からずっとカッコいいね」
 僕はほんの少し首を屈め、視線を合わせる。面影はあの頃のままだった。
「俺が俳優ってよく知ってるね。まだ全然無名なのに」
「そんなこと無いよ、私の周りでもファン沢山いるよ。モデル時代から応援してるって子も多いよ」
「天野くん! 聞いてよ、この子ってば、初恋の人が忘れられなくてちゃんと雑誌とか健気にチェックしているんだからねー!」
 元合唱部員だと言う周りが冷やかすと「からかわないで」とはにかんだ。
 俺は上京した大学在学中に、モデル事務所にスカウトされた。
「君の目付きは独特だね」と誘われ、「事故の後遺症なので」とやんわり断ろうとした俺に、
「いやいや、それもあるだろうけど、何を考えているのが分からない雰囲気――自分のエゴを押し出さない感じがいいね」と、よく分からない褒め言葉を事務所社長から受けた。その言葉をきっかけに、俺は自分の感情を持て余すことはなくなった。四年前、芝居にも向いているんじゃないかと誘われ、すぐに引き受けた。
 五月から始まる舞台公演はこの地元にも来る予定だ。情報はきっと噂好きな誰かによって元同級生達に光の速さで広まるだろう。
「夏にはこっちでも上演されるんでしょ? 頑張ってね」
「そこまで知ってくれてるんだ。ありがたいな」
 すると、「この子ったらまだ天野くんに夢中なんだからー」と周りに揶揄われた村瀬さんは恥ずかしそうに左手で顔を隠すと、その指に控えめな指輪が光った。一緒に下校した頃は俯いてばかりだった。年月が村瀬さんを強く、大人の女性にしたのだろう。十五年の長さに俺はゆっくり目を細める。
「⋯⋯また話せて嬉しいよ」
「私こそ、会えて良かった」
 そこへ、エレベーターホールへと次から次へと人がやって来て、流れに呑まれて乗り込む。狭い箱に元同級生達が詰め込まれ、村瀬さんと離れた。