僕との間に線を引くと、振り返ることなく望月は堤防を昇っていってしまった。
街灯の光の中へと遠ざかるシルエットを、僕はただ棒立ちのまま見送ることしかできなかった。
⋯⋯なんでだよ。どうして僕の言葉を聞いてくれないんだよ!!
ドクドクと心臓が脈打っている。それなのに、体中の血が凍りついたみたいに冷たい。
僕は望月を傷つけたくなんてなかった。あの回覧メモだって僕が書いたんじゃない。村瀬さんのことも、これ以上勘違いさせないために正直に言っただけなのに、どうして分かってくれないんだよ。
頭の中ではいくらでも弁解できる。
それなのに、僕は、言い返すことができなかった。
目を真っ赤にして、今にも泣き出しそうに震えていたのは、軽蔑の眼差しだった。望月の声が、音もなく僕の胸を突き刺した。
もう遅い。
さわさわと十二月の風が草叢を吹き抜ける。風邪がぶり返さないか心配するけど、望月には太谷がいるんだ、と言い聞かせる。
ゆっくりと頭上を仰ぐ。宵の空チラリチラリと閃光が走った。濃紺の天球に引っかき傷みたいな細い軌跡。
――あれが、双子座流星群か。
人生で初めてだ。
流れ星なんて今までずっと興味がなかったのに見つけた瞬間、胸がぐっと熱くなる。数秒ごとに僕の頭上をキラキラと降り注ぐ星は、本当は宇宙の塵だと知っているのに酷くロマンチックだ。
「寒ぃなー、やっは夜の矢川は」
僕の感傷を奪うように、遠くから騒ぎ声が響いてきた。
「寒いけど視界良好だな。そろそろ流星群見えるんじゃないか?」
明るく太谷が導く声に米倉達の楽しそうな反応が近付いてくる。慌てて斜面を駆け上がり、天端から見下ろすと階段を昇りはじめていた。
すぅ、と深呼吸をし、僕は覚悟を決める。
「あれ? アマじゃね? もう来てたのかよー」
気付かれた。
「⋯⋯河原、相当寒いよ。天体観測はやめたほうがいいと思う」
「はぁ? 何言ってんだよ、皆早く行こうぜー」
ささやかな最後の抵抗も無視された僕はおもむろに両足に力を込め、左の踵を蹴り上げた。マンツーマンのシュート練習の時と同じ速度で、堤防の外側、住宅街に面した急斜面を全力で駆け下りていく。斜面の裾野はちょうど外灯の当たらない死角で、さっきまで星を見上げていた反動で余計に暗く感じるのか、陰になって目の前がよく見えない。
「何やってんだよ、あいつ。うぜぇ」
笑い声が耳に入ると同時に僕は思いきり足を滑らせた。焦点が合わない闇の中、気付かなかった大きな窪みに引っ掛かかり、そのまま前方へと全身を捕られた反動で宙を舞った。
――母さん、二度もごめん、
心の中で謝った一秒後、僕の身体はアスファルトの地面に叩き落とされていた。
「きゃああああ」と女子達の悲鳴と米倉達のうろたえる声を聞きながら仰向けに倒れていると、
「早く救急車を!」と太谷が誰かに指示していた。
こんな時も、やっぱりキャプテンは頼れるな。関心しているうちに額を温かなものが伝っていき、錆びた鉄のような匂いを小六の冬振りに嗅ぐ。血を流しながら見上げる空は徐々に暗くなっていき、その合間にすぅと箒星が零れていく。
せめて今夜だけでも、望月の特別な場所を守れたかな⋯⋯?
自分でも馬鹿だと思う。でも、矢川に近付けさせない為には、これしか方法が思い浮かばなかった。
瞼を閉じる直前、かすれていく視界に白い光輪が残った。それは丸く孤を描いた弓張月で、今にもアルテミスが鋭く矢を放ちそうに僕に煌めいてみせた。
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