クリスマス会とは言っても、あくまでも名目は決起会だ。太谷が顧問にお願いして視聴覚室を借り、過去の試合のビデオを観てライバル校の分析。その後、部員一人一人、大会に向けての決意表明をして乾杯する(ジュース持ち込みも顧問の許可を受けたらしい)。参加者は四十人近くと大所帯で視聴覚室は満席だ。サッカー部員と顧問、米倉達が誘ったクラスの女子数名、それと柘植さんだ。
「時間になったら施錠するから呼びにこいよ。あとは太谷、頼むな」
夕方五時前、窓いちめんが西に沈んでいくオレンジ色の陽射しに染まりだした頃、そう言って顧問が職員室に戻ると、二年生中心に、いつの間に隠していたんだろうお菓子やカードゲームを取り出して騒ぎ出した。
「流れ星楽しみじゃない?!」
二年の女子の誰かが言いだして、話題は今夜の双子座流星群へと移る。
「校舎の屋上って開放してもらえないかなー。ねぇ、太谷くんの権限で顧問にお願いしてよー」
「流石にそれは難しいよ。先生達も帰ってる時間だろうし」
「それならもう場所決まってんだよ、流星群の観測場所にとっておきの場所が。なぁ?」
「それってどこどこー?」と先を急かす女子グループに米倉がドヤ顔すると続けた。
「もちろん、矢川の河川敷だよ」
思わず僕は立ち上がった。
「どうしたんだよ、アマ。ずっと黙ってそわそわしてたくせに。何か文句あるのかよ」
「⋯⋯何で矢川? 誰が決め――」
「天野くん。私が勧めたんだよ?」
横の席で静かにジュースを飲んでいた柘植さんが、まるで授業で模範解答を述べるように返事した。
「⋯⋯柘植さん、ちょっと話があるんだけど」
「おー、アマ。早速、二人で抜け出すのかよ。手が速ぇよなー!」
からかう声を薙ぎ払い、僕は慌てて柘植さんを廊下の隅へと誘い出す。
「何で矢川を選んだ? それに何でわざわざ米倉達に教え――」
「だって、天体観測するなら明かりの少なくて広い所がいいんだよ? 私達中学生が行ける所なんて限りあるんだから最適じゃない。米倉くんに相談されたから教えただけだよ。あ、安心して? 暗がりが見えにくいのは私がサポートするから。⋯⋯それとも何か不都合でもあるの?」
至っていつもの学級委員の口調で上目遣いすると、微笑んでくる。
「いや⋯⋯、不都合ってことは」
「天野くん。前に望月さんとはたまたま会っただけなんだよね? 一度だけ偶然、って天野くん言ってたけど、私また見ちゃったんだよね⋯⋯先週の水曜日の夜」
頭の中を覆っていた曇が強風で吹き飛ばされるようだった。疑問が一斉に解かれていく。
「合唱部のミーティングが長引いて校門出たら十九時前だったんだけど、天野くんの背中を見つけたの。足速いんだね。何を急いでるのか追って、堤防登ったら⋯⋯風邪で休んでるのにどうして望月さんが河川敷なんて寒い所いたのかな? しかも、どうして横に天野くんいるのかな、って暫く考えて⋯⋯ああ、もしかして二人が偶然会っちゃうくらい矢川って良い所なのかもって」
満面の笑みで柘植さんが続ける。目眩がしそうだ。
「⋯⋯何で、それを、わざわざあいつらに」
「佐々木くんてばしつこいんだもん。私達が付き合ってるのか米倉くんが知りたがってるから教えてあげたの」
思いもしない返事に言葉が見つからない。すると、
「おーい、夫婦喧嘩は終わったかよー?」
米倉達が廊下に顔を出してきた。
「てなわけで、俺達も矢川行くから。楽しみだなー! あ、いちゃつきたいなら俺達避けてやるから好きなだけ河原でどうぞー」
「先にどっかで飯食わないとな。その流星群っての、九時ぐらいからだからファミレスかどっかで時間潰さねー?」
「いや。それなら、決起会はここで終わりにしよう。帰る奴はここまでで大丈夫だ。天体観測に来る奴はこれから皆で夕飯をとって、終わり次第すぐに矢川の堤防に集合だ。皆、いいな」
揶揄いの波を締めくくるように太谷が号令をかけると、「賛成ー!」とその場が一層盛り上がる。
僕は机に駆け寄り、奪うように自分のカバンを掴む。
「天野くん、何してるの? まだクリスマス会の途中だよ」
「急用!!」
背中から追いかける甘えた声を振りほどき、この数日痛む膝を無視して、廊下を駆け出した。
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