君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた


 終業式は晴天で迎えた。
「今夜は、一年で最もきらめく流星ショーを観測できます。しぶんぎ座、ペルセウス座と並ぶ三大流星群の一つ、双子座流星群が今夜夜九時頃から明朝にかけて活動のピークの極大を迎えます。街灯りの少ない場所では、条件によっては一時間に数十個の流れ星が期待でき⋯⋯」
 朝、テレビのニュース番組でアナウンサーが嬉しそうに伝えるのを聞きながら家を出た。

 校長の話の間、体育館で整列する誰もがそわそわしていた。この後渡される通知表よりもクリスマス・イヴの夜が待ち遠しいのは、僕も同じだ。教室に戻り、担任の話を聞いていても右耳から左耳へ流れていく。
 左斜め前、窓際に座るショートカットの後頭部が妙に懐かしい。
 ⋯⋯やっぱり風邪が長引いたのかな。大丈夫かな。
 先週、あの後も結局、望月は登校してこなかった。風邪をぶり返したのか、下手したら、今夜の為に体力を温存させる為に休んだだけかも知れないけど、分からない。
 本当はすぐにでも話したいけど、下手に会話しようものなら米倉達の噂の餌食になる。
 望月を巻き込ませるのだけは、絶対に嫌だ。
「天野くん。クリスマス会ってサッカー部の人達は部室寄ってからだよね? 私、一度荷物取りに取りに帰るね。プレゼントもあるから期待しててね!」
 二学期終了のチャイムと同時にクラスメイト達が羽根を伸ばす中、柘植さんが僕の机にやって来た。
「柘植さん、あのさ」
「あ、心配しなくても勿論、天野くんにだけ特別にだよ? 安心して」
「いや、そうじゃなくて⋯⋯、もしかして何か勘違いさせてないかな、僕が、柘植さんに」
「勘違いなんてしてないよ? 天野くん、それじゃクリスマス会会場でね」
 僕の言葉に耳を傾けることなく、ぱちぱちと上目遣いで瞬きして教室を出て行ってしまった。
 こんなにもコミュニケーションとるのが難しかったっけ⋯⋯。
 正直、疲れる。そう思ってしまう自分は最低だろうか。
 周りに気付かれないように小さく溜息を吐き、僕は力無く机に項垂れると、机の横を誰かが通り過ぎる気配がした。
 天使の輪が、横を横切った。
 窓からの陽に受け、望月の黒髪が輝いているのが目に飛びこんでくる。数日振りに見た彼女の顔は少し痩せて見える。
「も、望月!」
 慌てて声を掛けると、その歩調が一瞬だけ乱れたのち、ゆっくりと振り返る。まったくの無表情だった。
 しまった。
 教室では話し掛けるべきじゃなかったのに。
「いや、その……」
 振り返ったものの、少し距離を置いたままの望月はポーカーフェイスで僕と目を合わせようしない。
「その⋯⋯、風邪、もう大丈夫なのか?」
「うん」
「そっか、良かった」
「じゃ、私行くから」
 すると、望月は一度も振り向かずに廊下に出ていった。放たれた言葉は刃物のように鋭く、まるで風が吹き抜けていくように僕の胸がざわめく。
 教室の陰で、好奇心を隠そうともせず僕達の一部始終を見つめているのが視界の端に映る。全員が黙っているのに、クラスメイト同士の視線が僕の頭上で絡み合い、言葉を交わしているのを肌に伝わってくる。
 僕は机の下で拳を強く握りしめ、席を立った。