君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた


 
 美化委員会の間、僕は窓の外をぼんやりと眺めていた。空いちめんを分厚い雲が覆っていき、終業のチャイムが鳴った時にはポツポツと雨が降り出し、今朝傘を持ってくるのを忘れていたのに気付く。
 流石に、今夜は行かないよな。
 望月は傘を持ってきてるだろうか。矢川の河川敷は今頃きっと泥濘んでいるな、と思い浮かべているうち、嫌でも柘植さんが見せてきた画像を思い出す。
 仄かな人影が二つ、斜面を登りきった僕と望月だった。弟の塾の迎えへと急ぐのをその場で見送り別れたが、その瞬間を撮られていた。どうして柘植さんは写真なんか撮ったのか、いつもなら理解出来なかっただろう僕は、確実に彼女からの好意を感じとっていた。
「天野くん、今日もお疲れ様」
 ガタガタと周りが席を立つ中、話しかけられた。
 三組の村瀬さんだ。三つ編みを両肩に垂らし、柔らかな表情で僕を見ている。
「お、お疲れ様」
 前回の会はたった一ヶ月前だった筈なのに、何故だがとても久しぶりな気がする。
「無事に大掃除の区域が決まって良かったね。うちの三組と四組、体育館担当で大変だけど、天野くんと一緒だからとっても助かるな。当日もよろしくね」
「⋯⋯こちらこそ、よろしく」
 微笑みかけられて曖昧に返事する。
 真面目に会に参加していた村瀬さんに対して、僕は話し合いなど全く聞いてなかった。それなのに頼りにまでされるなんて。ゆっくりと胸に罪悪感が湧いてくる。
「天野くん。⋯⋯今日も、一緒に帰っても、いい?」
 僕が身支度を始めると、俯いていた村瀬さんが呟いた。その白い頬がゆっくりと赤くなっていく。
 柘植さんと比べると控えめだけど、速まる鼓動がこちらまで伝わってきそうだった。まるで突風が草原を突き抜けるみたいに胸の奥がざわめき出す。
 真正面で向き合ったまま僕が黙っていると、村瀬さんも何も言わない。そっと視線を合わせようとすると、思いのほか屈んだ姿勢になる。
 こんなに小柄だったかな、と首を傾げようとして固まった――望月よりも背が低いせいだ。
「……ん」
「えっと⋯⋯?」
「⋯⋯ごめん」
 長い睫毛に縁取られた両目が僕を見上げたまま、丸くなる。言葉が出てこなくてもどかしい。頭に並べた無難な理由が胸に巻き起こった風に薙ぎ払われていくと同時に、口が勝手に動いた。
「⋯⋯好きでもないのに、一緒に帰るとか、もう、やめたいんだ」
 勢いよく頭を下げると、僕は奪うように鞄とコートを摑んで教室を出た。
 足が止まらない。村瀬さんに酷いことを言ったと分かっているのに、昇降口へと走る間じゅう一度も振り向けなかった。