久しぶりに地元の駅を降りると、景色は様変わりしていた。
……随分と都会になったな。
年度末で立て込んだ仕事を終えたその足で新幹線に乗り込み、ホームに降りた俺は、駅前の様子に愕然としながらサングラスを外した。
子供の頃、ローカルテレビでCMが散々流されていたパノラマ展望台も、四車線の大通りに建てられたピラミッドを模したモニュメントも、橙色のロゴが古めかしい老舗地元デパートもなくなっていた。
俺の育った街が、駅名標がなければどこかも分からない日本各地の都市をコピペしたように変わってしまっていたことに愕然とする。
ふと見上げると、真っ暗な空を突き刺すように煌々と灯りをつけた五十二階のタワーが聳え、街行く人々を見下ろしている。
同窓会会場のある駅直通のホテルだ。
会場は最上階にある「ポラリス」という〈北極星〉を意味する名前の宴会場で、到着すると、なるほど、ちょうど市街の中心に位置したホテルの全面ガラス張りから星空がよく見渡せる。
「あいつだってよ、今回の主催者」
「まじか、メガネじゃん!」
出入口に近付いた途端、ひそひそ声が耳に侵入してくる。背広姿の男二人が、フロアの奥のステージを指さしていた。その延長線上、マイクスタンド前で眼鏡をかけた細身のスーツ姿男がホテルスタッフに何やら指示している。
「メガネがベンチャーで成功するとか、まじウケるわ」
「陰キャだったくせにな」
「こっちは昼飯代で千円も出せないリーマンだってのに」
「俺なんて牛丼でも贅沢だわ」
意地悪く笑い合う二人組が同級生の誰だったか思い出せそうになかったが、そのおしゃべりのお陰で眼鏡の正体が分かった。
「おお、アマじゃん!」
眼鏡の細身スーツが俺に気付き、大きく手を振ってくる。
「え、天野くん来てるの?!」
「嘘、どこどこ?!」
「やば、かっこいいー!! 全然変わってない!」
主催者の反応につられるように、会場内の参加者が一斉に俺に注目する。じろじろと遠慮なく注がれる視線を無言で受け止めると、人の波をかき分けてステージ脇へと向かい、手を上げた。
「近藤、久しぶりだな」
「うわ、アマ、久しぶりー! 相変わらず男前だな。今そこの女子が騒いでたぞ。クールな視線が良いってよ!」
「目付きが悪いのが直ってないだけだよ」
「謙遜するとこも格好良いのかよ、アマは」
中学の二年の時に同じクラスだった近藤は、班行動で一緒になることが多かった。当時、俺は「アマ」と呼ばれていたが、近藤は「天野くん」呼びだった。慣れた風な言い方がこそばゆい。
遠くだとぼやけて分からなかったが、身長が伸びたうえに痩せた近藤は、間近で見ると垢抜けたのが一目瞭然だった。あの頃かけていたダサい眼鏡とは違ってフレームもシャープになっていた。
言われてみればハガキに名前が記載されていたのを今更思い出す。
「中学卒業以来か? 随分と顔見ていなかったけど、まぁ、アマは忙しそうだもんなぁ」
「近藤ほどじゃないよ。起業して成功したんだって」
「何、俺のこと知っていたんだ?! 今注目のアマにまで広まっているなんて光栄だな」
鼻高々そうな反応に頷く。本当は出入り口付近で噂されているのを耳にしたばかりだけれど、アルコールが入る前から上機嫌そうなので黙っておいた。
中学の頃はクラスの中心グループの同級生はもちろん、俺にすら話しかける度におどおどしていたのに、成功者はフロアの中で一等星の輝きを隠そうともしない。
「近藤。実は聞きたいことがあるんだけど」
おもむろに二つ折りにした招待状を差し出す。
「うわっ、招待状、皺だらけじゃん!」
「いや、最初間違えて」
「ま、分からなくも無いか。俺だって二度と会いたくない奴等ばっかりだもんな、中学なんて」
先程まで明るかった声音は低く濁った。近藤は声を潜めて続ける。
「今夜集まったのもさ、青春なんて言葉で美化して現実逃避している奴等ばっかだよ。まぁ、それでも顔出せるだけマシな部類か。人生上手くいってない奴からしたら、同窓会なんて地獄だろうからなぁ。今夜の出席率、一学年のうち三分の一だから意外と多い方か?」
「……それなのに、近藤は何で、主催者を引き受けたんだ?」
「これだけ地元で名前が売れたらなぁ、断るに断れないからな。それに見ろよ、どいつもこいつも浮かれているだろ? こんな地方都市、娯楽だって大したことないし、世間が狭いから自分から出ていかない限り行動範囲だって限りあるからな。そこで俺が、同窓会ってレジャーを提供してやってもいいかなって思ったんだよ」
「レジャーって」
すると、近藤は眼鏡の下で歪ませていた眉間を急に緩ませた。
「そうだな。まぁ、強いて言えば……、復讐かな。俺なりの」
