君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた

 ふぅ、と溜息を吐く。
 ゴール端を狙ってシュートした僕の球が、あっさりとキーパーグローブの両手に捕られる。
 これで八本中ゼロ。太谷相手だと、子供が大人に対決を挑んでいる気分になる。現実は無残だ。
 周りに散ったチームメイト達はそれぞれペアになってシュート練習に打ち込んでいる。
 繋げたらどんな星座になるんだろうな。
 ふと、四十人弱のサッカー部員が点在する校庭を上から見下ろしたらどうなるんだろう、と素朴な疑問が湧いた。
『星座をつくる星同士って、地球から観測すると近くにあるけど、実際はとんでもなく離れたところにあるんだよね。例えば、オリオン座の二大星、天空側の赤いベテルギウスと足元の青白いリゲルなんて、二六〇光年も離れてるんだよ?!』
 天体講義で知識を披露する望月の声が蘇ってくる。すると、
「アマ、集中して」
 十一メートル離れた太谷から叱責が飛んでくる。つい妄想を広げ過ぎた。
「ごめん」
「よし、もう一回!」
 明るい呼び掛けに僕は頭を切り替える。この所は目の調子が良い。また身長が伸びたのか膝が痛むし、バランスは崩れやすいけど、ちゃんと練習を熟せば大会に数分間でも出られるかも知れない、と僅かな希望が胸に煌めく。少しだけ脚のコントロールが戻ってきた気がして不思議だ。
「――ところでさ、最近聞いたんだけど、四組の男子の間で回ってるんだって? 女子の投票」
 休憩に入るなり太谷に訊かれた。不意打ちで思わずタオルを落としそうになるのを慌ててキャッチする。
「⋯⋯よく知ってるな」
「体育の授業でも騒いでただろ。悪趣味なことはやめろ、ってヨネ達に注意したんだけど、もう回ってないか?」
 不快な文章を思い出して首を振る。
「先週、一度回ってきたきり、最近はないよ」
「そっか! 良かった」
 安堵するなり、笑顔に戻る太谷に僕は確信を持った。
 望月の心配をしてたのか。
 サッカーを始めて以降はあまり話さなくなったと聞いていたが、幼馴染が悪く言われるのを黙っていられないんだろう。正義感が強い。
「ヨネもあんな馬鹿なことしてないで、素直になればいいのにな」
 当の本人が校舎脇の水飲み場でだべっているのを確認すると、太谷は小声で続ける。
「前にうちのクラスの村瀬さんとアマが一緒に帰っているって噂をしつこく訊いてきただろ? ヨネ、村瀬さんのこと気になってるみたいでさ」
「え。そうなの、か?」
「やっぱり。別のクラスの俺が気付いているのにね、相変わらず鈍いんだな。アマは」
 苦々しい声が耳を突き刺してくる。その村瀬さんとの一件、誤解なのに米倉に詰め寄られた時も『そういう所直した方がいいよ』と制された時と同じだ。キャプテンの助言は正論で、言い返す余地がない。
「ヨネはすぐ顔に出るから分かりやすいほうだよ? まぁ、予想するに、男子の中でライバルがいないか偵察してるんだろうな。気恥ずかしいから、投票とか言って誤魔化してるだけだよ」
「⋯⋯でも、もし、本当に村瀬さんを意識してるんなら、あんなやり方⋯⋯」
「確かにやり方は最低だし、何より女子達に失礼だよ。俺からヨネだけじゃなく佐々木達にもきつく注意しといたんだ。やめてくれて良かったよ。――ただ、アマ、それも勘付いてなかったんだな?」
「それは⋯⋯」
「アマの為に言うけど」
 僕が閉口していると、開始ミーティングで部員全員に発破をかけた調子で続ける。
「そう言う所も誤解を生みやすいんだよ。学級委員の柘植さんだっけ? 彼女にも気を持たせてるんだろ? それがますますヨネの気に食わないんだよ。気を付けろよ」
 そこで休憩終了のホイッスルがコートに鳴り響いた。促されるまま再びマンツーマン練習に戻る。「今のいい感じ!」と激励が飛んでくるのに、さっきまで膨らんでいた大会への意欲は消えていた。
 どうしてだろう。ゴール前で構える太谷との距離は数メートルの筈が、何光年先の恒星のように遠くに感じる。

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