君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた

 意識が戻った時、目の前の景色がすべて光に飛ばされたみたいに真っ白だった。
 病院のベッドの中、アルコール消毒液や薬のやけにきつい匂いを嗅ぎながら、母さんの説明で事情を知った。どうやら運転手の不注意で車体がガードレールに衝動し、ちょうど歩道にいた僕を轢き、アスファルトに頭を強く打ち付けられた。他のクラブ仲間は皆助かったそうだ。
『奇跡的に大きな怪我は負わなかったったし、目の手術も成功したから、すぐに見えるようになるから、ね』
 包帯で巻かれた闇の中で聞くと、いつも能天気な母さんの声が驚くほど狼狽していたのが伝わってきた。
 退院したのは冬休みに入る直前、
「ハンサムな顔が崩れなくて良かったわね。お父さんも美形だったのよー」
 と、母さんの軽口が戻っていて安心した。手術代とか家計の負担になっていないのかな、と心配するも「子供はそんなこと気にしないの!」と一蹴し、続けて「人に優しくするのよ。そうしたら人に優しくされるから」と言い聞かしてきた。
 ――だれど、世界は僕に優しくなんかなかった。
 手足に大きな支障は無かったものの、頭を打った影響で視神経にダメージを受けており、完治するものではないが少しずつ良くなる、と医師は物々しく説明してきた。
 包帯を外す日、ドキドキしながら瞼を開いた。予想は外れた。目の前のもの全てがブラックホールに呑まれたみたいに真っ暗になった。逆に、光に覆われて眩しい時は真っ白になる。極太の針で頭をぐさぐさも刺されるようで痛くて堪らない。
 もうサッカーは出来ないんだ⋯⋯。
 そう事実を認識した時、僕はもう一度、暗闇に突き落とされた。それは、絶望という孤独だった。
 春休みが明け、中学生になった僕は、人生を諦めることを覚えていた。適当にどこかの文化部に籍を置けばいい、とオリエンテーション後にぶらぶらと渡り廊下を歩いていた時、太谷に再会した。
『アマ、体は動くんだろ!? ならまだサッカー出来るよ、一人で諦めんなよ!』
 桜の花びら舞う中庭、すれ違う同級生達の視線を浴びながら、僕は慣れない学ランの肩に太谷の励ましが重くのしかかかった。
 ――もう前みたいにゴールを決められない⋯⋯、僕なんかが入部しても、足手まといにしかならないのに。
 喉元まで出かかった瞬間、肩に掛けられた手がすっ、と差し伸べられた。
『俺がお前とサッカーやれるのをどれだけ楽しみにしてたのか、知らないのか? 出来る限り、俺、アマをサポートするから』
 春の陽射しで真っ白に塗りつぶされた視界の中、僕の右手を握る力強さと、疑うことのない真っ直ぐな声が忘れられない。
 顧問に事情を説明して、僕は入部を許可された。目が眩んだり頭痛がしたら即交代する条件でコートに立つと、意外にも身体はボールの記憶を忘れていなかった。
「何だよー、こっちが気ぃ遣うことなかったじゃん!」
 と、米倉達が肩透かしを食らったみたいな反応も、最初こそ嬉しかった。同情は校庭だけじゃなく教室でも浸透し、一年のクラスメイトや担任が、
「天野くんは無理しないで」「しんどいだろ、代わるよ」と、こちらが頼む前から甲斐甲斐しく世話してきた。
 だけど、それも、思いの外サッカー部で動ける僕の姿を見るにつれ徐々に減った。
「あいつ、わざと気を引く為に病気のふりしてるんじゃねぇのか? 顔が良いしさ」
 そんな嫌味を言う先輩もいたが、試合で得点すれば事済んだ。
 ⋯⋯それもこれも、身長が伸びる前までの話だけど。