望月は泣き続けた後、「ほらね。涙って一定量で止まるでしょ?」と自虐めいたよつにはにかんだ。僕は模範解答すら思い浮かばず、ただ傍で立ち尽くすしかない自分を歯がゆく思っていると、
「それにしても背高いよね、天野くん。私、女子の中だと背が高いほうなんだけどなぁ。身長いくつ?」
瞼を腫らしたまま、望月が上目遣いで訊いてきた。
「百八十センチ越えたくらい」
「うわ、そりゃあ高い! こうやって並ぶとよく分かるなぁ」
「あんまり、嬉しくないけどね」
「でも、足が長くていいじゃん、武器になりそう」
「⋯⋯ドリブルが下手になって嫌なことばっかだよ。母さんも、モテていいじゃない、って、こっちの気も知らずに」
「⋯⋯そっか。そうだよね、ごめん」
僕の左肩の下、純粋に羨んでいた声ががそっと萎んでいく。月明かりの下、そっと盗み見ると両目が赤く滲んでいた。
「こっちこそ、ごめん⋯⋯、褒めてくれたんだよな」
こくり、と真横で頷くのが分かった。ずっと邪魔で仕方なかった背丈を、僕は初めて素直に嬉しく思った。
「望月はスタイル良いよな」
「え?! 何、急に」
体育の時間の光景を思い出す。走り高跳びのバーに向かってひたむきに走る姿は靭やかで、その格好良さにクラスの男子が何人も見惚れていた。それにこの河原で出会った時も、まっすぐ地平に立つ姿は天上に矢を射るように可憐だった。まるで狩りの女神のアルテミス――僕はまんまと星座講義に影響されたみたいだけど。
「将来、モデルとか向いてそうだよ」
「またまたぁ、お世辞はいらないって!」
「僕が嘘つくの下手なの指摘したの、望月だよ」
するとバツが悪そうに顔をしかめた後、「……ありがと。嬉しい」と恥ずかしそうに俯いた。
「それこそ天野くんなんてすぐにでも芸能界デビューできそうだけどね」なんて付け加えながら。
それから時間が来るまで、僕達は黙って冬の空を眺めた。
紺碧のドームでは恒星がそれぞれの輝きを競い合う。星と星の位置は何千年も昔から変わることなく絵柄を描き、牡牛に立ち向かうオリオンの雄姿が現れ、その傍らで月が見守っている。
望月と並ぶと、僕の方が少しだけ夜空に近かった。左横を見下ろせば、漆黒の髪が光の輪を被っている。
「今夜も天使の輪っか、出てるな」
「本当? やった!」
「うん。つむじを中心点に円状に艶が広がって、北極星の周りに広がる銀河に似てるよ」
「それって褒めてるの? いじられてるの?」
「望月の神秘性を崇めようかと思って」
「ちょっと、馬鹿にしてるー?」
「してないって――あっ」
「危ない!」
冗談まじりに僕の肩を叩くしぐさに、大袈裟に避けようとした途端に足が縺れ、体勢が崩れる。片足が宙に浮いてよろめく僕の手を急いで望月が取った。その反動で全身が凭れてしまい、慌てて離れた。
「ごめん! 重かっただろ」
「それは大丈夫。天野くん、もしかして、段差になってるの見えてなかった?」
さっきまで僕が立っていた場所を目を凝らして見れば、叢の陰になっていた岩場の間に窪みが出来ていた。
「もしかして、目のせい? 先に教えてあげれば良かったね、ごめん」
「いや、むしろ助かったよ。ありがとう」
今更二人して他人行儀に頭を下げ合うのが可笑しい。手を外そうとした時、ひゅうう、と水面に触れて冷えた風が僕達の間を吹き抜けていく。
「⋯⋯寒いね」
「うん、寒いな」
冷えきった望月の指先を包み、僕はそっと自分のコートのポケットに入れた。望月はその手を拒否しなかった。
繋がる二つの掌に、熱がじんわりと温もっていく。
☆☆
