君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた

 確実に冬本番を迎えたのを、河原の草を踏みしめる足の裏から知る。カサカサ、と乾いた音がする度に、僕は肌寒さと上手く言葉にできないもどかしさで両手をポケットにつっこんだ。
「どうしたの? 寒いの?」
 左隣から心配そうに声を掛けられる。首を横に振ると、望月はすぐに顔を向き直した。今夜も地上より頭上の世界しか興味なさそうで、夜空から何かを必死で探しているような素振りに、ふと疑問が沸いた。
「そう言えば、望月は望遠鏡とか使わないの?」
「いやいや。私は、見えないものを見ようとはしないから」
 シンプル、かつ大胆なパスが返ってくる。もしも望月が男で同じサッカー部だったらとんでもなく良いストライカーだろう。
 とは言えこちらと試合する気はないらしく、十二月に入ってオリオン座がますます目立つようになった夜のパノラマに夢中だ。
「確かに星を見るには肉眼だと限界あるんだよねー。でも、望遠鏡って結構お値段するんだよねー⋯⋯」
 悔しそうに眉をしかめると両手を組み、うーん、と伸びをした。その反動で、たくし上げられたセーラー服の裾から、ちらりと薄ピンク色の布地が覗いた。細かなレースを縁取ったペラペラの布は透けていて、白い脇腹が目に入る。
「……なあ」
「ん? ああ、でもやっぱり望遠鏡あった方が見やすいか、天野くんは」
「いや、そうじゃなくて、その⋯⋯」
「え、何?」
 無防備な肌はプリーツスカートから伸びる脛と同じく、白い。その眩しさに、急いで僕は目を逸らす。
「何でもない」
「ふーん。変なの」
 こちらを男だと意識していないのか、不思議そうに僕の横顔をじろじろと見てくる。暗くて良かった。
 青黒い空の東には月に負けじと、赤々と冴え渡る星とぼんやりと青白く滲む星が目立っている。望月の熱血指導のおかげでオリオン座を形作る一等星のべテルギウス、リゲルの名前を間違えずに言えるようになった。地面に近い方がリゲルだ。砂時計の形みたいに真ん中が括れているのはオリオンの腰部分で、その右下にあることから「オリオンの足」と呼ばれているらしい。
 望月に習ったばかりの知識を総動員しながら、狩人の巨大な足を仰ぐ。
 こいつこそ、力強くサッカーボールを蹴りそうだな⋯⋯。
 そんなことをぼんやりと妄想していると、自然と僕の口は自訊いていた。
「幼馴染みなのか?」
「へ?」
「太谷」
 何をするでもなく二人で天体観測を始めた矢川の河原で初めて、他人の名前を発した。望月も僕も、星座と神話に出てくる名前しか口にしてこなかった。
「陽のこと? そうだけど」