君の放つアルテミスの矢が、僕の胸を貫いた

 黒板に並んだ文字が二重に見える。白いチョークで走り書きされていく数式に目を凝らそうとした時、ツンと目の奥に痛みが走った。
 痛っ⋯⋯!
 僕は小さく眉間を寄せる。
 この目のせいで、授業の板書を取るスピードが遅れてばかりだ。
 苛立ちが胸の奥で泡立つのを僕は必死に抑えつけ、再び黒板を見る。何度まばたきをしても景色は何重にもなったまま戻らず、チャイムが鳴った。
「しっかり復習するように」と機械的に挨拶すると、数学教師は黒板の文字を消した。
 ただでさえ苦手教科なのに、ますます嫌いになりそうだ。
 溜息を吐き、力無く机に突っ伏そうとした次の瞬間、カサリ、と僕の手元にノートが差し出された。習字の見本のような几帳面な字が並んでいる。授業の板書だ。
「え? これ⋯⋯」
 顔を上げると、机の前に微笑む柘植さんが立っていた。
「天野くん、授業中見えなかったんでしょ? こめかみを見えづらいんだなって思って。これ、良かったら写して」
「え、本当に? 柘植さん困らない」
「ううん。委員として当たり前のことだから」
「ありがとう⋯⋯、本当に助かるよ。柘植さん、よく見てるんだね、僕のこと」
 そう告げると、はっとしたように柘植さんは目を見開き、一瞬で耳たぶまで真っ赤に染めた。伏せられた彼女の睫毛が小さく震えている。
 その表情に熱っぽさが宿り、僕は感謝とはよそに、どこかいたたまれない気持ちが込み上げてくる。
 ⋯⋯僕、また、何か間違えたのかな。
 変なことを口走って嫌な想いをさせてしまったんじゃないかと勘繰ってしまう。
「お、見つめ合っちゃって、ラブラブかよー」
 いつの間に近付いてきたのか、佐々木がからかってきた。その横から米倉が、
「アマは女子といる時だけ元気だからなぁ。サッカーもそれぐらい気合い入れればいいのに」
 いつもよりも抑えた口調で付け足してきた。ちくりと刺すような物言いはわざとなのか、くっくっくっ、と他の何人かがつられて笑っている。
 反応しちゃいけない。胸の奥が燻(くす)ぶるのを僕は無視した。
 頭を下げて柘植さんからノートを受け取る。
「本当にありがとう。すぐに返すから」
「ううん、いつまででも。⋯⋯私、構わないから、天野くんの為なら」
「え?」
「やだ、うふふ」
 上目遣いで微笑むと、柘植さんはスカートの裾を翻しめ自分の席へ小走りで駆けていった。

   ☆