彼女が一緒であれば、間違いなくスルーした。
自動販売機と電柱の間に、まるで隠れるようにして存在している黒い板。注意深く見ると、木製の板ではなく金属製の人工物に思えてきた。とはいえ、木製であろうが金属製であろうが、原材料が何であろうと関係ない。僕にとっては何の価値もないものだ。鉄板を収集する趣味はない。おそらく、何人かの通行人がこの板に気付いたはずだ。にも関わらず、まだここあるということは、僕と同じように何の必要性も見出せなかったのだろう。そもそも、電柱の側という位置が悪い。イメージ的に、犬が散歩するときに片足を上げる場所だ。つまり、端的に表現すれば、何となくばっちい気がする。それを拾い上げて観察する人など、まずいないということだ。
「・・・タブレットかな?」
まあ、無意識のうちに手に取っているという事態は、ある。それが、今だ。
電柱の前に腰を下ろし、黒い板を手に取る。その直後、木製とは違う重さで思わず落としそうになった。縦20センチ、横15センチ、厚さが1センチ弱くらいだろうか。片側がディスプレイになっていることから、タブレットではないかと思われる。思われるというのは、ディスプレイは真っ黒のままで、どこにも製造した会社のロゴや製造番号等が記載されたシールが見当たらないからだ。
「臭いは・・・特にしないな」
排泄物に汚染されていないことを確認し、手に持って立ち上がる。もしも、ということがある。確認作業は必須だ。これが木の板であれば捨て置くところであるが、タブレットであればさすがに放置しておく訳にはいかない。僕のような善人に拾われれば問題ないが、全ての通行人が詩人君主ではないのだ。
ちょうど、今から向かう駅の前に派出所があるため、拾得物として届けることにした。
僕は駅前に到着して、即座に項垂れた。
「マジかあ」
派出所のカウンターの前に立つと同時に、「ただいまパトロール中。御用の方は下記の電話番号にご連絡下さい」と表記された掲示板が目に入ったからだ。夜間のことは分からないが、日中は2人体制で1人は交番に待機していると思っていた。しかし、事件は現場で起きているのだ。当然、同時に何かが起きる、という事態も有り得る。
さて、どうしたものか。
警察官が戻ってくるまで待つ、という対応が一番確実に思える。しかし、見ず知らずの人のために、いつ戻ってくるのか分からない警察官を待つ気にはなれない。とはいえ、警察官の携帯電話に直接連絡する気にもならない。万一、「2時間ほど待って欲しい」などといわれたら目が当てられない。しばらく考えて、現実的な結論を出した。
「まあ、明日でいいか」
タブレットを丁寧に扱わなかった持ち主が悪いのだ。そんな人物のために、僕の貴重な時間を使用する必要はない。
僕はタブレットを手にしたまま、駅の改札に向かった。
電車の時間までは15分程度。下り方面の電車はこの時間帯は20分から30分に1本程度。海岸線を走る単線のため、雨や雪に弱く遅延は当たり前で、運行停止になることもある。そんな路線だ。
駅のホームに出ると西陽が差して無駄に体力を消費するため、日陰にあるベンチに座る。この時間帯の下り方面は学生しか利用者がいないため、まだまだガラガラだ。あと2時間ほどすれば会社員の帰宅ラッシュに重なってしまう。そうなれば、呑気に座ることもできなくなる。
電車の予定時間まで時間を潰そうと、何となく手にしていたタブレットを調べてみる。何度見ても製造元は分からなかったが、それよりももっと不思議なことに気が付いた。どこにも電源どころか、他のスイッチも見当たらない。それに、充電ケーブルを挿し込む端子が無いのだ。防水カバーで見えないだけかと思って探してみたが、どこにもカバーらしきもすら無い。
「何だこれ?」
思わず頭に浮かんでいた言葉を口にしてしまう。それほどまでに、異様なタブレットだった。拾ったことを後悔するが、今さらベンチに放置する訳にもいかない。元の場所に返すということも考えたが、それはそれで面倒だ。やはり、明日でいい、という結論に落ち着いてしまう。ごく普通に拾っただけだ。誰からも責められる状況にないのである。
もう一度、両手で持って目の前に翳す。
うん、やはりタブレットとしか思えない。もしかすると、最新型の充電器に置くだけの方式なのかも知れない。だけど、意外とタブレットは大きくて持ち運びが面倒だ。しかも、どうにも邪魔になる。
そんなことを考えていると、両手で持っているタブレットのディスプレイが瞬いた。
そして、僕が見ている目の前で音も無く起動動作に入った。何をどうした訳ではないが、なぜか電源がオンになったのだ。
自動販売機と電柱の間に、まるで隠れるようにして存在している黒い板。注意深く見ると、木製の板ではなく金属製の人工物に思えてきた。とはいえ、木製であろうが金属製であろうが、原材料が何であろうと関係ない。僕にとっては何の価値もないものだ。鉄板を収集する趣味はない。おそらく、何人かの通行人がこの板に気付いたはずだ。にも関わらず、まだここあるということは、僕と同じように何の必要性も見出せなかったのだろう。そもそも、電柱の側という位置が悪い。イメージ的に、犬が散歩するときに片足を上げる場所だ。つまり、端的に表現すれば、何となくばっちい気がする。それを拾い上げて観察する人など、まずいないということだ。
「・・・タブレットかな?」
まあ、無意識のうちに手に取っているという事態は、ある。それが、今だ。
電柱の前に腰を下ろし、黒い板を手に取る。その直後、木製とは違う重さで思わず落としそうになった。縦20センチ、横15センチ、厚さが1センチ弱くらいだろうか。片側がディスプレイになっていることから、タブレットではないかと思われる。思われるというのは、ディスプレイは真っ黒のままで、どこにも製造した会社のロゴや製造番号等が記載されたシールが見当たらないからだ。
「臭いは・・・特にしないな」
排泄物に汚染されていないことを確認し、手に持って立ち上がる。もしも、ということがある。確認作業は必須だ。これが木の板であれば捨て置くところであるが、タブレットであればさすがに放置しておく訳にはいかない。僕のような善人に拾われれば問題ないが、全ての通行人が詩人君主ではないのだ。
ちょうど、今から向かう駅の前に派出所があるため、拾得物として届けることにした。
僕は駅前に到着して、即座に項垂れた。
「マジかあ」
派出所のカウンターの前に立つと同時に、「ただいまパトロール中。御用の方は下記の電話番号にご連絡下さい」と表記された掲示板が目に入ったからだ。夜間のことは分からないが、日中は2人体制で1人は交番に待機していると思っていた。しかし、事件は現場で起きているのだ。当然、同時に何かが起きる、という事態も有り得る。
さて、どうしたものか。
警察官が戻ってくるまで待つ、という対応が一番確実に思える。しかし、見ず知らずの人のために、いつ戻ってくるのか分からない警察官を待つ気にはなれない。とはいえ、警察官の携帯電話に直接連絡する気にもならない。万一、「2時間ほど待って欲しい」などといわれたら目が当てられない。しばらく考えて、現実的な結論を出した。
「まあ、明日でいいか」
タブレットを丁寧に扱わなかった持ち主が悪いのだ。そんな人物のために、僕の貴重な時間を使用する必要はない。
僕はタブレットを手にしたまま、駅の改札に向かった。
電車の時間までは15分程度。下り方面の電車はこの時間帯は20分から30分に1本程度。海岸線を走る単線のため、雨や雪に弱く遅延は当たり前で、運行停止になることもある。そんな路線だ。
駅のホームに出ると西陽が差して無駄に体力を消費するため、日陰にあるベンチに座る。この時間帯の下り方面は学生しか利用者がいないため、まだまだガラガラだ。あと2時間ほどすれば会社員の帰宅ラッシュに重なってしまう。そうなれば、呑気に座ることもできなくなる。
電車の予定時間まで時間を潰そうと、何となく手にしていたタブレットを調べてみる。何度見ても製造元は分からなかったが、それよりももっと不思議なことに気が付いた。どこにも電源どころか、他のスイッチも見当たらない。それに、充電ケーブルを挿し込む端子が無いのだ。防水カバーで見えないだけかと思って探してみたが、どこにもカバーらしきもすら無い。
「何だこれ?」
思わず頭に浮かんでいた言葉を口にしてしまう。それほどまでに、異様なタブレットだった。拾ったことを後悔するが、今さらベンチに放置する訳にもいかない。元の場所に返すということも考えたが、それはそれで面倒だ。やはり、明日でいい、という結論に落ち着いてしまう。ごく普通に拾っただけだ。誰からも責められる状況にないのである。
もう一度、両手で持って目の前に翳す。
うん、やはりタブレットとしか思えない。もしかすると、最新型の充電器に置くだけの方式なのかも知れない。だけど、意外とタブレットは大きくて持ち運びが面倒だ。しかも、どうにも邪魔になる。
そんなことを考えていると、両手で持っているタブレットのディスプレイが瞬いた。
そして、僕が見ている目の前で音も無く起動動作に入った。何をどうした訳ではないが、なぜか電源がオンになったのだ。



