「アオ、ぼくたちのファンクラブあるって知ってた?」
一歩前を歩く葵に、晴がウラアカの投稿画面を見せた。
「ツイプリファンクラブ」の文字と、葵と晴の目線の合っていない画像が映っている。
「アホらし」
葵は見向きもせず、“鹿島”の表札がかかっている大きな表門を潜った。
ファンサイトのURLまで貼ってある。宣伝目的? バカバカしい。2人とも最低クズ人間なのに。
「見てよ、麗ちゃん」
眉をしかめる麗に、晴はファンサイトを開いて見せた。
隠し撮り写真、双子の行動記録、妄想。執着を通り越して狂気だ。
「これってさ……」
口元に微笑を浮かべ、麗に視線を移した。
「反吐が出るよね」
蔑むような眼差し。麗は目線を外し、小さく溜息をついて門を潜った。
……他人のこと言えないでしょ。
本性を知ったら、ファンは一人残らずいなくなる、はず。
玄関を開けると、葵が黒柴の頭を撫でていた。
麗が恐る恐る近づくと、威嚇の唸り声をあげ、歯をむき出しにして吠えたてた。
「何で私だけ……」
「ははっ。サクラもおまえのこと下僕だと思ってんだよ」
子供のような笑顔でサクラを撫でる葵が、いつも以上に腹立たしい。
「おかえり~」
ふいに頭をポンポンと軽く叩かれ、驚いて振り向いた。
「フクロウさん!」
「制服似合ってんじゃん」
フクロウはまるで幼い子供にするように、麗の頭をよしよしと優しく撫でた。
「ありがとう、ございます」
190センチ近くあるフクロウを見上げて、麗は苦笑した。
この年で子供扱いは、ちょっと恥ずかしい……。
「小さかった頃が懐かしいなあ」
遠い目をして、パーマがかったアッシュグレーの髪をくしゃっと触る。一瞬、寂しそうな表情が浮かんだ。
「フク兄、仕事で来たんだろ」
麗とフクロウの間に割って入った葵が、ゴッドイエローのカラコンの瞳を睨みつけた。
「報告に来ただけだ」
サクラがフクロウのもとへ駆け寄ってきた。フクロウは満面の笑みでサクラを抱きあげ、別人のように目尻を下げた。
「サクラちゃん、さみしかったでちゅか? おれも寂しかったでちゅよ~」
フクロウの動物への愛は重すぎて引く。
人間は動物以下だと本気で思っている、動物至上主義者。相変わらず極端だ。
「そうだ。久しぶりに、麗ちゃんの淹れたコーヒーが飲みたいな」
フクロウは麗に顔を向け、白い歯を見せた。
「あっ、はい! 淹れてきます」
麗は急ぎ足で台所へ行った。
お湯を注ぐたびにコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
フィルターからポタポタ零れ落ちるコーヒーをぼうっと見つめる。
本当は、コーヒーなんて淹れたくない。
昔のことを、思い出して胸が痛くなる。
両親の喫茶店。いつも笑顔に満ちていた。
あの時は、幸せだったのに。
最後の一滴が、褐色の水面に落ちる。波紋が広がり、情けない自分の顔が歪む。
唇を強く噛み締める。口の中に、血の味が広がった。
応接間に行くと、縁側から見える中庭で、フクロウが葵と一緒にサクラとボール遊びをしていた。お盆を机に置くと、晴が真っ先にカップを手に取った。
「やっぱり麗ちゃんの淹れるコーヒーは、香りがいいね」
鼻をカップに近づけて微笑む。
「アオにはまだ分からないだろうなあ」
室内に戻ってきた葵にわざと聞こえるように言う。葵はムスッとした表情で、何も言わずにカップを手に取った。だが、一口すすってすぐにカップを置き、顔をしかめた。
「ミルクと砂糖もありますよ」
「うるせえ。子ども扱いすんじゃねえ」
親切心なのに! 怒鳴らなくてもいいじゃん!
……いやいや。これしきのことでいちいち腹を立てていたら、血管が切れちゃう。
麗は心を落ち着かせ、フクロウにカップを渡した。
「サンキュー。ん~、香ばしくて深い味わい。店出せるレベルだわ」
手放しでほめられると照れてしまう。
「そうですか? ありがとうございます」
頬をかくと、ポケットの中でスマホが振動した。スマホを開くと、理事長からのメッセージが届いていた。葵と晴が同時にスマホを見て、同じタイミングで舌打ちをした。
「女か? ライオンみたいにハーレム作って女を蔑ろにしてたら、刺し殺されるかもしれねえぞ。おまえらの遺体は、俺が掃除屋にお願いしてやるよ」
にやりと不敵に歪む口から八重歯が覗く。
「フクロウさんが言うと冗談に聞こえないよ。葵は硬派な純情だから、心配はいらないけどね」
晴が葵の肩を叩いてくすくす笑う。
「女じゃねえし。叔父さんからだ。めんどくせえこと押しつけられちまったんだよ」
晴の手を雑に振り払い、葵は理事長からのメッセージをフクロウに見せた。
「ウラ風紀委員? よく分かんねえけど、おまえらをこき使うなんて、さすが姐さんの実弟だな」
口をへの字に曲げ、感心したように頷く。
「フクロウさん、理事長のこと知ってたんですか?」
目を見開く麗に、フクロウは苦笑した。
「おれを誰だと思ってんの。ウラ界隈でおれのこと知らないやつはいねえよ」
そうだった。ただの動物好きの変わった人ではなかった。
——フクロウさんなら、ウラアカ作成者をすぐに見つけられそう。
その前に、理事長からのメッセージ確認しないと。
『オリエンテーリングで、ウラアカについて情報集めをしなさい』
「オリエンテーリング?」
「1・2年生合同の行事で、生徒会主催らしいよ。毎年、内容が変わるんだって」
首を傾げる麗に晴が答えると、葵が苦々しい顔でサクラにボールを投げた。
「めんどくせえ」
「しょうがないよ。これも理事長命令。そんなことより、フクロウさんにお願いしたいことがあるんだけど」
横に座った晴に、フクロウが顔をしかめた。
「何だよ」
「ウラアカの作成者を探して欲しいんだ」
フクロウは更に顔をしかめ、麗を振り向いた。
「おれがやらないと、麗ちゃんが困ること?」
「……はい。困ると、思います」
「じゃあ、やるよ」
微笑んだフクロウは親指を立てて、頷く。ボールをくわえたサクラが、麗に向かって唸った。晴は溜息をつき、葵は眉をしかめた。麗は目を伏せ、カップをお盆に集めて応接室を出た。
フクロウさん、何で私にだけ優しいんだろう……。
何か裏があるんじゃないかって疑ってしまう。心当たりは何もないけど。
やばい、やばい!! オリエンテーリング遅刻とか、ありえない!
麗が息を切らせて、ふらつく麗の腕を葵が掴んだ。
「早くしろ。校門、閉まるぞ」
一緒に走ってきたのに、葵は息切れもせず余裕の顔つきだ。
「麗ちゃん、あとちょっとだよ。頑張ろう」
晴は肩で息をしながらも、爽やかスマイルを崩さず、麗の背中を強く押した。
「ま、待って、ください!」
校門前にいる生徒会の腕章をつけた生徒が、必死の形相の麗を見て、目を見開いた。
3人が校門に滑り込んだ途端、チャイムが鳴り、校門は閉められた。
「アオ、作戦にしてもさ、ギリギリすぎたんじゃない?」
「これぐらいがリアルでいいだろ」
作戦? 何それ。
「ぼくたちと麗ちゃんのペアが同じグループになっても、誰もなんとも思わないでし
「しょうがねえだろ。理事長命令だ。おじさんには勝てねえからな」
私には連絡きていない。
世話係だって言っておきながら、疎外する。巻き込んだくせに、この仕打ち。ひどい。ここでも私は“モノ”。“モノ”に自由はない。
……自由が、欲しい。
「来た順でクラスごとにくじを引くんだけど、君たち最後だからこれ持ってって。ペアとグループ書いてあるよ。あと、これ」
校門を閉めた生徒が、小さく折り畳まれた紙と、手書きのしおりを渡してきた。
1年3組の列に加わってすぐ、澪が壇上に上がった。
その途端。
ざわついていた生徒達は、しんと静まりかえった。
「皆さん、おはようございます」
柔らかく聞き取りやすい声が、校庭に響いた。
「引いてもらったくじは、1、2年生合同でグループわけしたものです」
さっき2人が話してたのって、このこと?
「ぼくら3人、同じグループだよ。よかったね」
晴が笑顔で耳打ちしてきた。
何も良くない。このためにわざと遅く家を出て、全力疾走させたの⁉ しかも理事長命令
とか、ありえない!
麗はボストンバックの肩ベルトを強く握りしめた。
「グループで3つのミッションをこなしてもらいます。異学年でほぼ初対面同士のグループ。不安に思われるでしょう。しかし、呉越同舟」
澪の整った眉毛が、一瞬微かに動いた。
「敵対していても、共通の目的があれば協力し合えます」
おしとやかな笑顔に、どよめきが起こった。
「あいつのうさんくさい笑い方、おまえに似ててむかつく」
晴の方を振り向いた葵が小突いた。
「失礼な。ぼくの笑顔とは全然違うよ。ね、麗ちゃん」
晴がにっこり目を細めて、人畜無害そうな笑顔で振り向いてきた。
「同じです。うさんくさい」
即答すると、晴は眉を下げてしょぼくれた顔をした。
――また、その顔。
隣の2年生の列から小さな悲鳴が上がり、女子たちがとろけた顔を晴に向けた。
晴が手を振ると、顔を覆ってのけ反った。
葵がドン引きの表情で目をそらし、麗は小さく溜め息をついて、澪の話に耳を傾けた。
「すべてのミッションにはポイントがつけられます。獲得ポイント上位3グループには、素敵なごほうびを用意しました。それは……」
生徒達から拍手と歓声が上がった。澪がマイクを手に取ると、甲高いノイズ音が響き、一気に場が静まった。
「今は秘密です。明日の閉会式を楽しみにしていてください。皆さん、頑張ってくださいね」
澪が壇上を降りると、ざわめきが起こった。
「生徒会長、やるじゃん」
晴の呟きは葵に届き、葵は不信感丸出しの顔で澪を睨んだ。
麗はしおりを開き、ひとつめのミッションの内容に目を通した。
最初のミッションは、スタンプラリー。これなら、ミッションをこなしながら情報も集められる。
言われるがまま従いたくない。どうせやるなら、自分で考えて行動したい。
籠から出してもらえなくても、抗い続ける。
自由を取り戻すために。
唇を引き結んで顔を上げた麗は、鋭い視線を感じて背中が震えた。
振り向いても誰もいない。壇上の澪だけが、静かにこちらを見ていた。
まるで全てを見透かすように——。
一歩前を歩く葵に、晴がウラアカの投稿画面を見せた。
「ツイプリファンクラブ」の文字と、葵と晴の目線の合っていない画像が映っている。
「アホらし」
葵は見向きもせず、“鹿島”の表札がかかっている大きな表門を潜った。
ファンサイトのURLまで貼ってある。宣伝目的? バカバカしい。2人とも最低クズ人間なのに。
「見てよ、麗ちゃん」
眉をしかめる麗に、晴はファンサイトを開いて見せた。
隠し撮り写真、双子の行動記録、妄想。執着を通り越して狂気だ。
「これってさ……」
口元に微笑を浮かべ、麗に視線を移した。
「反吐が出るよね」
蔑むような眼差し。麗は目線を外し、小さく溜息をついて門を潜った。
……他人のこと言えないでしょ。
本性を知ったら、ファンは一人残らずいなくなる、はず。
玄関を開けると、葵が黒柴の頭を撫でていた。
麗が恐る恐る近づくと、威嚇の唸り声をあげ、歯をむき出しにして吠えたてた。
「何で私だけ……」
「ははっ。サクラもおまえのこと下僕だと思ってんだよ」
子供のような笑顔でサクラを撫でる葵が、いつも以上に腹立たしい。
「おかえり~」
ふいに頭をポンポンと軽く叩かれ、驚いて振り向いた。
「フクロウさん!」
「制服似合ってんじゃん」
フクロウはまるで幼い子供にするように、麗の頭をよしよしと優しく撫でた。
「ありがとう、ございます」
190センチ近くあるフクロウを見上げて、麗は苦笑した。
この年で子供扱いは、ちょっと恥ずかしい……。
「小さかった頃が懐かしいなあ」
遠い目をして、パーマがかったアッシュグレーの髪をくしゃっと触る。一瞬、寂しそうな表情が浮かんだ。
「フク兄、仕事で来たんだろ」
麗とフクロウの間に割って入った葵が、ゴッドイエローのカラコンの瞳を睨みつけた。
「報告に来ただけだ」
サクラがフクロウのもとへ駆け寄ってきた。フクロウは満面の笑みでサクラを抱きあげ、別人のように目尻を下げた。
「サクラちゃん、さみしかったでちゅか? おれも寂しかったでちゅよ~」
フクロウの動物への愛は重すぎて引く。
人間は動物以下だと本気で思っている、動物至上主義者。相変わらず極端だ。
「そうだ。久しぶりに、麗ちゃんの淹れたコーヒーが飲みたいな」
フクロウは麗に顔を向け、白い歯を見せた。
「あっ、はい! 淹れてきます」
麗は急ぎ足で台所へ行った。
お湯を注ぐたびにコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
フィルターからポタポタ零れ落ちるコーヒーをぼうっと見つめる。
本当は、コーヒーなんて淹れたくない。
昔のことを、思い出して胸が痛くなる。
両親の喫茶店。いつも笑顔に満ちていた。
あの時は、幸せだったのに。
最後の一滴が、褐色の水面に落ちる。波紋が広がり、情けない自分の顔が歪む。
唇を強く噛み締める。口の中に、血の味が広がった。
応接間に行くと、縁側から見える中庭で、フクロウが葵と一緒にサクラとボール遊びをしていた。お盆を机に置くと、晴が真っ先にカップを手に取った。
「やっぱり麗ちゃんの淹れるコーヒーは、香りがいいね」
鼻をカップに近づけて微笑む。
「アオにはまだ分からないだろうなあ」
室内に戻ってきた葵にわざと聞こえるように言う。葵はムスッとした表情で、何も言わずにカップを手に取った。だが、一口すすってすぐにカップを置き、顔をしかめた。
「ミルクと砂糖もありますよ」
「うるせえ。子ども扱いすんじゃねえ」
親切心なのに! 怒鳴らなくてもいいじゃん!
……いやいや。これしきのことでいちいち腹を立てていたら、血管が切れちゃう。
麗は心を落ち着かせ、フクロウにカップを渡した。
「サンキュー。ん~、香ばしくて深い味わい。店出せるレベルだわ」
手放しでほめられると照れてしまう。
「そうですか? ありがとうございます」
頬をかくと、ポケットの中でスマホが振動した。スマホを開くと、理事長からのメッセージが届いていた。葵と晴が同時にスマホを見て、同じタイミングで舌打ちをした。
「女か? ライオンみたいにハーレム作って女を蔑ろにしてたら、刺し殺されるかもしれねえぞ。おまえらの遺体は、俺が掃除屋にお願いしてやるよ」
にやりと不敵に歪む口から八重歯が覗く。
「フクロウさんが言うと冗談に聞こえないよ。葵は硬派な純情だから、心配はいらないけどね」
晴が葵の肩を叩いてくすくす笑う。
「女じゃねえし。叔父さんからだ。めんどくせえこと押しつけられちまったんだよ」
晴の手を雑に振り払い、葵は理事長からのメッセージをフクロウに見せた。
「ウラ風紀委員? よく分かんねえけど、おまえらをこき使うなんて、さすが姐さんの実弟だな」
口をへの字に曲げ、感心したように頷く。
「フクロウさん、理事長のこと知ってたんですか?」
目を見開く麗に、フクロウは苦笑した。
「おれを誰だと思ってんの。ウラ界隈でおれのこと知らないやつはいねえよ」
そうだった。ただの動物好きの変わった人ではなかった。
——フクロウさんなら、ウラアカ作成者をすぐに見つけられそう。
その前に、理事長からのメッセージ確認しないと。
『オリエンテーリングで、ウラアカについて情報集めをしなさい』
「オリエンテーリング?」
「1・2年生合同の行事で、生徒会主催らしいよ。毎年、内容が変わるんだって」
首を傾げる麗に晴が答えると、葵が苦々しい顔でサクラにボールを投げた。
「めんどくせえ」
「しょうがないよ。これも理事長命令。そんなことより、フクロウさんにお願いしたいことがあるんだけど」
横に座った晴に、フクロウが顔をしかめた。
「何だよ」
「ウラアカの作成者を探して欲しいんだ」
フクロウは更に顔をしかめ、麗を振り向いた。
「おれがやらないと、麗ちゃんが困ること?」
「……はい。困ると、思います」
「じゃあ、やるよ」
微笑んだフクロウは親指を立てて、頷く。ボールをくわえたサクラが、麗に向かって唸った。晴は溜息をつき、葵は眉をしかめた。麗は目を伏せ、カップをお盆に集めて応接室を出た。
フクロウさん、何で私にだけ優しいんだろう……。
何か裏があるんじゃないかって疑ってしまう。心当たりは何もないけど。
やばい、やばい!! オリエンテーリング遅刻とか、ありえない!
麗が息を切らせて、ふらつく麗の腕を葵が掴んだ。
「早くしろ。校門、閉まるぞ」
一緒に走ってきたのに、葵は息切れもせず余裕の顔つきだ。
「麗ちゃん、あとちょっとだよ。頑張ろう」
晴は肩で息をしながらも、爽やかスマイルを崩さず、麗の背中を強く押した。
「ま、待って、ください!」
校門前にいる生徒会の腕章をつけた生徒が、必死の形相の麗を見て、目を見開いた。
3人が校門に滑り込んだ途端、チャイムが鳴り、校門は閉められた。
「アオ、作戦にしてもさ、ギリギリすぎたんじゃない?」
「これぐらいがリアルでいいだろ」
作戦? 何それ。
「ぼくたちと麗ちゃんのペアが同じグループになっても、誰もなんとも思わないでし
「しょうがねえだろ。理事長命令だ。おじさんには勝てねえからな」
私には連絡きていない。
世話係だって言っておきながら、疎外する。巻き込んだくせに、この仕打ち。ひどい。ここでも私は“モノ”。“モノ”に自由はない。
……自由が、欲しい。
「来た順でクラスごとにくじを引くんだけど、君たち最後だからこれ持ってって。ペアとグループ書いてあるよ。あと、これ」
校門を閉めた生徒が、小さく折り畳まれた紙と、手書きのしおりを渡してきた。
1年3組の列に加わってすぐ、澪が壇上に上がった。
その途端。
ざわついていた生徒達は、しんと静まりかえった。
「皆さん、おはようございます」
柔らかく聞き取りやすい声が、校庭に響いた。
「引いてもらったくじは、1、2年生合同でグループわけしたものです」
さっき2人が話してたのって、このこと?
「ぼくら3人、同じグループだよ。よかったね」
晴が笑顔で耳打ちしてきた。
何も良くない。このためにわざと遅く家を出て、全力疾走させたの⁉ しかも理事長命令
とか、ありえない!
麗はボストンバックの肩ベルトを強く握りしめた。
「グループで3つのミッションをこなしてもらいます。異学年でほぼ初対面同士のグループ。不安に思われるでしょう。しかし、呉越同舟」
澪の整った眉毛が、一瞬微かに動いた。
「敵対していても、共通の目的があれば協力し合えます」
おしとやかな笑顔に、どよめきが起こった。
「あいつのうさんくさい笑い方、おまえに似ててむかつく」
晴の方を振り向いた葵が小突いた。
「失礼な。ぼくの笑顔とは全然違うよ。ね、麗ちゃん」
晴がにっこり目を細めて、人畜無害そうな笑顔で振り向いてきた。
「同じです。うさんくさい」
即答すると、晴は眉を下げてしょぼくれた顔をした。
――また、その顔。
隣の2年生の列から小さな悲鳴が上がり、女子たちがとろけた顔を晴に向けた。
晴が手を振ると、顔を覆ってのけ反った。
葵がドン引きの表情で目をそらし、麗は小さく溜め息をついて、澪の話に耳を傾けた。
「すべてのミッションにはポイントがつけられます。獲得ポイント上位3グループには、素敵なごほうびを用意しました。それは……」
生徒達から拍手と歓声が上がった。澪がマイクを手に取ると、甲高いノイズ音が響き、一気に場が静まった。
「今は秘密です。明日の閉会式を楽しみにしていてください。皆さん、頑張ってくださいね」
澪が壇上を降りると、ざわめきが起こった。
「生徒会長、やるじゃん」
晴の呟きは葵に届き、葵は不信感丸出しの顔で澪を睨んだ。
麗はしおりを開き、ひとつめのミッションの内容に目を通した。
最初のミッションは、スタンプラリー。これなら、ミッションをこなしながら情報も集められる。
言われるがまま従いたくない。どうせやるなら、自分で考えて行動したい。
籠から出してもらえなくても、抗い続ける。
自由を取り戻すために。
唇を引き結んで顔を上げた麗は、鋭い視線を感じて背中が震えた。
振り向いても誰もいない。壇上の澪だけが、静かにこちらを見ていた。
まるで全てを見透かすように——。
