HxMx ESCAPE 小説版

 超有名進学塾の前に、一台の車が止まる。生徒たちはいつもの事だと思い、さして気にも止めずに塾へ入っていく。車の中から出てきた少女、花乃は一旦道路に足をつけると、車の方へ向き直る。助手席から白髪が立派な老人が出てきて花乃に礼をする。

「ではお嬢様、九時に迎えに参ります」
「はい……」

 『お嬢様』と、そう言われた少女、花乃は元気がない様子で塾に入っていく。

「彼女が花乃です」

 向かい側のビルの陰ら、カツイ、トバ、ゲッカの三人は身を縮めて花乃を見る。
 花乃が塾に入ってから、三人は信号を渡り順に塾へ入っていった。受付の所を屈んで通り過ぎ、【1-S】と書かれた教室の前まで来ると、中をそっと覗いてみた。花乃は真ん中の列の一番前にいて、熱心に授業を受けていた。

「月水金は塾、火土はピアノ、木はバイオリンで日は茶道。毎日九時まで予定がびっしり詰まっていて、彼女は自由な時間が持てないんです」

 カツイからの返答はなかった。カツイは花乃を凝視していた。いつまでも花乃を見つめ続けているカツイを、トバは不審な目で見る。

「カツイくん……?」

 様子を伺うようなトバの言葉遣いにカツイはギクリとする。
 二度ほと軽く咳払いをすると、カツイはゲッカに視線を向ける。

「あー……じ、じゃあとりあえず花乃ちゃんを連れ出すとすっか」