「呉林」
突然そう呼ばれたハナは振り返る。するとそこには生活指導主任の竹石がいた。ハナが一瞬にビクッとして後ずさりをすると、竹石はハナに一歩近づいた。
「ご両親が校長室にいらしている。一緒に来なさい」
「い……嫌です」
ハナは再び一歩下がる。カツイもトバも同じような状況をくぐり抜けてきたのかと思うと、ハナは改めて二人をすごいと思ってしまった。
とても自分には真似できそうもない。
「世話を焼かせるな。来い!」
連日のカツイとの追っかけっこでストレスが溜まっていた竹石は強引にハナの手をつかみ引っ張って行こうとした。ハナは足に力を入れ、 なんとか引っ張られないようにした。
「いやっ! 先輩!!」
それは咄嗟に出た言葉だった。
「はいはいっと」
次の瞬間、竹石の体はぐらつき、ハナの方へ倒れ込んだ。ハナが身を躱すと、竹石はそのまま床に激突し、ハナの目の前にはトバが立っていた。倒れた竹石の背中には、トバの靴跡がくっさりと残されていた。
「ト、トバ先輩!」
「大丈夫?」
まるで姫君を助ける王子のように颯爽と現れたトバは、辺りの生徒の目を気にしてか、突然ハナの手を掴んだ。
「行こう」
ハナの顔が急に火がついたように真っ赤になり、トバに引かれるがまま、無言で走っていった。
しばらくしてトバは走りのスピードをゆるめ、なぜかハナの手を掴んだまま並んで歩き出した。ハナはその手が気になって、ドクドクと心臓が高く鳴り始めたが、トバの異変に気づき顔を上げる。
トバはまっすぐ廊下の正面を見ていた。向こうから歩いてきたのは、トバよりも年上の青年。
青年は堂々と廊下の真ん中を通り、何人かの生徒は端に寄る。トバはハナの手を掴んでいる手に力を込め、そのまままっすぐ廊下の真ん中を通って歩き出した。このままでは確実に二人はかち合ってしまう。そう思ったハナだったが、二人はかち合う寸前、互いに僅かに右に寄った。
その青年、ヒカルはすれ違う寸前、わずかにトバを見た。ヒカルの後ろにはソウマがいて、ソウマもトバをチラリと見た。トバもソウマを見返し、次の瞬間、四人はもうすでにすれ違っていた。
「あ、カツイくん!」
何だか慌てた様子のカツイをようやくトバはハナとともに見つけた。どうやらカツイの方もトバとハナを探していたらしい。息を切らせながら、ようやくカツイはほっとして二人を見る。
「どうしたんだよ二人で」
「今ハナちゃん、先生に連れていかれそうになって……」
「反応早過ぎだぜ……」
カツイは項垂れるように、頭を抱えながら座り込んだ。
「でも、そのうち少なくなるよ。僕みたいに」
カツイはある事情があって、これは『家出』として取り扱われながったが、トバは違った。初めは連日のようにトバを連れ戻そうと追手が来ていたが、日毎に数は減り、とうとうトバの事を追わなくなった。それはそれでトバ達は暮らしやすいのだが、トバにとっては自分が忘れ去られたような気がしてならなかった。
「トバ……」
(トバ先輩……)
ハナもトバを見上げる。トバはぐっと何かを堪えているようで、握った拳が細かに震えていた。
一方、ソウマを引き連れて歩いている生徒会長のヒカルは、先程すれ違ったトバ達が印象に残っていた。
ヒカルはこの学校の高等部の生徒で、普段中等部などには寄らないのだが、今日は少々問題を持ち込んで、中等部の職員室に寄っていたのだった。
「ソウマくん。さっきのは?」
「はい。3-Cのトバと1-Fの呉林です」
ソウマがそう答えると、ヒカルは少し考え込むように口元に手を当てた。ヒカルはトバに見覚えがあった。
「やっぱり……でもトバくんの友達がいなかったね」
「はい」
「例の首謀者のカツイくん……か」
ヒカルは意味深な笑みを浮かべる。その笑みを見てソウマはヒカルに声をかける。
「会長……?」
「ソウマくん」
「はい」
「最近起こった二件の家出事件。徹底的に調べて」
ヒカルの『命令』。ヒカルの秘書であるソウマがこれに逆らえるわけがない。
「――かしこまりました」
突然そう呼ばれたハナは振り返る。するとそこには生活指導主任の竹石がいた。ハナが一瞬にビクッとして後ずさりをすると、竹石はハナに一歩近づいた。
「ご両親が校長室にいらしている。一緒に来なさい」
「い……嫌です」
ハナは再び一歩下がる。カツイもトバも同じような状況をくぐり抜けてきたのかと思うと、ハナは改めて二人をすごいと思ってしまった。
とても自分には真似できそうもない。
「世話を焼かせるな。来い!」
連日のカツイとの追っかけっこでストレスが溜まっていた竹石は強引にハナの手をつかみ引っ張って行こうとした。ハナは足に力を入れ、 なんとか引っ張られないようにした。
「いやっ! 先輩!!」
それは咄嗟に出た言葉だった。
「はいはいっと」
次の瞬間、竹石の体はぐらつき、ハナの方へ倒れ込んだ。ハナが身を躱すと、竹石はそのまま床に激突し、ハナの目の前にはトバが立っていた。倒れた竹石の背中には、トバの靴跡がくっさりと残されていた。
「ト、トバ先輩!」
「大丈夫?」
まるで姫君を助ける王子のように颯爽と現れたトバは、辺りの生徒の目を気にしてか、突然ハナの手を掴んだ。
「行こう」
ハナの顔が急に火がついたように真っ赤になり、トバに引かれるがまま、無言で走っていった。
しばらくしてトバは走りのスピードをゆるめ、なぜかハナの手を掴んだまま並んで歩き出した。ハナはその手が気になって、ドクドクと心臓が高く鳴り始めたが、トバの異変に気づき顔を上げる。
トバはまっすぐ廊下の正面を見ていた。向こうから歩いてきたのは、トバよりも年上の青年。
青年は堂々と廊下の真ん中を通り、何人かの生徒は端に寄る。トバはハナの手を掴んでいる手に力を込め、そのまままっすぐ廊下の真ん中を通って歩き出した。このままでは確実に二人はかち合ってしまう。そう思ったハナだったが、二人はかち合う寸前、互いに僅かに右に寄った。
その青年、ヒカルはすれ違う寸前、わずかにトバを見た。ヒカルの後ろにはソウマがいて、ソウマもトバをチラリと見た。トバもソウマを見返し、次の瞬間、四人はもうすでにすれ違っていた。
「あ、カツイくん!」
何だか慌てた様子のカツイをようやくトバはハナとともに見つけた。どうやらカツイの方もトバとハナを探していたらしい。息を切らせながら、ようやくカツイはほっとして二人を見る。
「どうしたんだよ二人で」
「今ハナちゃん、先生に連れていかれそうになって……」
「反応早過ぎだぜ……」
カツイは項垂れるように、頭を抱えながら座り込んだ。
「でも、そのうち少なくなるよ。僕みたいに」
カツイはある事情があって、これは『家出』として取り扱われながったが、トバは違った。初めは連日のようにトバを連れ戻そうと追手が来ていたが、日毎に数は減り、とうとうトバの事を追わなくなった。それはそれでトバ達は暮らしやすいのだが、トバにとっては自分が忘れ去られたような気がしてならなかった。
「トバ……」
(トバ先輩……)
ハナもトバを見上げる。トバはぐっと何かを堪えているようで、握った拳が細かに震えていた。
一方、ソウマを引き連れて歩いている生徒会長のヒカルは、先程すれ違ったトバ達が印象に残っていた。
ヒカルはこの学校の高等部の生徒で、普段中等部などには寄らないのだが、今日は少々問題を持ち込んで、中等部の職員室に寄っていたのだった。
「ソウマくん。さっきのは?」
「はい。3-Cのトバと1-Fの呉林です」
ソウマがそう答えると、ヒカルは少し考え込むように口元に手を当てた。ヒカルはトバに見覚えがあった。
「やっぱり……でもトバくんの友達がいなかったね」
「はい」
「例の首謀者のカツイくん……か」
ヒカルは意味深な笑みを浮かべる。その笑みを見てソウマはヒカルに声をかける。
「会長……?」
「ソウマくん」
「はい」
「最近起こった二件の家出事件。徹底的に調べて」
ヒカルの『命令』。ヒカルの秘書であるソウマがこれに逆らえるわけがない。
「――かしこまりました」



