翌日の通学時、杏瑞の頭の中はやはり『ちょろぎと安房』のことばかりだった。
教室へ入ると、いつものように安房は自分の席で本を読んでいる。
今までなら気にしていなかったはずなのに、 昨日の一件以来、つい意識してしまう。
平静を装い、安房の前にある自分の席についた。
(そう言えば安房くんって……一人でいることが多いような……)
クラス内で友達と話している姿をほとんど見たことがないことに気がついた。
杏瑞のようにまったく話さないわけではないが、特別に仲のよいクラスメイトはいないようだ。
なるべく意識しないよう、教科書を机に移していた、その時だった。
「ちょろぎ隊長、おはよー!」
大きな声で、昨日教科書を貸した生徒が入ってきた。
「だからやめろって。しかもデカい声で」
安房がチラリと目を細め、釘を刺す。
「あははー、怒った? ごめん、ごめん」
口だけの謝罪で軽くかわされ、安房もそれ以上は何も言わなかった。
「昨日は助かったよ。ありがとう」
そう言いながら、借りていた教科書を安房に手渡す。続けて「そう言えば」と話しかけた。
「今、俺がやってるゲームでさ、ちょっと前まで[MMモバイル]やってたって奴と出会ったんだ」
「俺も、ここに来る前はやってたって言ったら話が弾んでさ。そいつが言うには最近はチーターやチームキラーが多くて嫌気が差して、こっちに来たらしいんだよ。」
(!!!!)
盗み聞きをしていた杏瑞は、びくっと体を震わせた。
「最近の[MMモバイル]ってそんなに治安が悪いの? 安房も遭遇した? 運営、何してんだろ」
安房はその話を聞き、
「フレンドが、チーターやチームキラーに絡まれて嫌になったって言ってな……」
(――――――っ!?)
ガタッ! ガシャガシャッ!!
あまりの驚きに、杏瑞は机をひっくり返してしまった。
「あっ、ああぁ……」と、動揺して声がでた。
「!! 大丈夫か! 奈々原っ!」
「えっ!なに!? いきなりどうした!?」
安房が杏瑞に駆け寄り、両肩を押さえて心配する。
友人の希葉《きば》も気にかけていたが、安房に任せ、散らばった教科書や筆記用具を拾い始めた。
「大丈夫か? 奈々原、昨日からおかしいぞ。無理しない方がいいんじゃないか?」
「昨日より顔色が悪いぞ。保健室、行くか?」
杏瑞は首を横に振り、
「だ、だい、じょぶで……す」
頭を深く、何度も下げて二人にお礼を伝えた。
杏瑞を気にしながらも、安房と希葉は先ほどの話を続けた。
「前みたいに、一緒にやらないか? 安房が入ってくれると、すげー助かるんだけど」
安房は少し考えてから、
「いや、俺は今のフレンドと一緒にプレイしているのが楽しいから……悪い」
「そっか……しょうがないか」
「いつでも歓迎するからな」
笑いながら肩を叩かれ、安房は苦笑いした。
「俺は行かねーよ」
「はは……そっか。残念だよ」
そう言い残し、「また借りにくるから」と教室を後にした。
(やっぱり……ちょろぎさんが安房くんだったんだ……)
(私とペンペンさん、三人でプレイしているのが楽しいって言ってくれた……うれしい……) 机を倒した『恥ずかしさ』の赤面が、『嬉しさ』の赤面へと変わっていく。
杏瑞の鼓動は高鳴っていた。
『私がアプリコットです』と伝えるべきか。
それとも、何も言わず、今まで通りネットの中だけで繋がっているべきなのか。
(そんなこと言ったら、絶対に幻滅されちゃうよね……でも……)
胸の奥がきゅっと縮む。
一緒に走って、助け合って、笑って。
画面越しなのに、不思議なくらい安心できて――――――――
心から楽しいと感じた日々だった。
その温度だけが、今も心に残っている。
(嫌われたら、それで終わり……怖い……
でも……この気持ちを隠したまま、
知らないふりで笑うほうが……もっと苦しい……)
指先が震える。
制服の裾をぎゅっと握り、呼吸を整えようとする。
(幻滅されて一緒にプレイできなくなっても、元々は辞めるつもりだったし……)
(ちょろぎさんがいたから、続けられただけ……)
胸がまた波打つ。期待と不安が同じくらいの重さで押し寄せてくる。
(……うん……嫌われてもいいから……ちゃんと伝えよう……)
(何もなかった『独り』に戻るだけ……安房くんの顔は見ないようにすれば…………それでいい……はず……)
(ペンペンさんには悪いけど、私がいなくなっても安房くんから伝えてもらおう)
そんなことを考えていたら、先ほどまでの緊張がすっかりなくなっていた。
(うん、決めた!)
昼休みに安房に伝えようと決心した。今までの杏瑞には『あり得ない』行動力だった。自覚はなかったが、ゲーム内でのコミュニケーションが杏瑞を成長させていた。
そして――――――昼休み
そそくさとお弁当を食べ終え、安房に伝えるタイミングを待っていた。
(うぅ……決意したのに……緊張してきた…)
杏瑞は改めて思ったことがあった。
(あれ? 私って、家族以外に自分から人に話しかけたことがなかったかも……)と。
自分自身の自問自答で緊張がさらに高まり、身体が震えてきた。
(うぅ……言えなくなってきた……)
後ろで本を読んでいる安房をチラチラ見る。
読書の最中に申しわけないとは思いながらも
『伝えるタイミングは今しかない』
と鼓舞するが、言葉が出ない。更に安房を見る。何度も何度も……
安房の視界にも杏瑞がこちらを意識して見ていることが伝わったのか「ん?」と顔を上げ、視線を杏瑞に向けると目が合った。
顔を真っ赤にした杏瑞が『はっ』とし、顔を前に向き直す。このやり取りが数回続いた所で安房が杏瑞に話しかける。
「奈々原、何か言いたいことがあるのか?」
ただ問いかけただけなのに、杏瑞にはその声が少し冷たく聞こえてしまった。
「あっ、あ、あの……」
伝えようと努力するが、それ以上言葉が続かない。
安房は杏瑞の言葉を待っていたが、結局杏瑞は首を大きく左右に振り、前を向いてしまった。
杏瑞は言葉が出ない自分にイライラしながらも何とか伝えようとがんばった。
(よしっ!)
数分後、おもむろに席を立った杏瑞が安房に向かい合った。
安房が「ん?」と杏瑞を見る。
杏瑞は顔を真っ赤にしながらメモを安房に突き出した。
安房は『なんだろう?』と思いながらメモを受け取り、目を通すと………『えっ!?』
あなたはちょろぎ隊長ですか?
と、短いメモ。
「……あ、希葉か。あいつが言っていたからか。でも何で、そんなことを聞くんだ?」
杏瑞はスマホを安房に差し出す。安房は何が何だか分からない。杏瑞は「んっ」「んっ」と、見ろと言わんばかりに押し付けてくる。
安房はスマホを受け取り、画面を見た……
「えっ、これ[MMモバイル]のロビー画面か?」
「このメイドスキンって、あれ?えっ!」
安房が動揺する。
画面左上のアイコンを見ると見慣れたアイコンだった。そしてアイコン下のキャラクター名を見て驚愕した。
「アプリコットさん……」
安房は杏瑞を見た。杏瑞は顔を真っ赤にしたまま、こくこくと頭を上下する。
安房は理解するまで時間がかかった……
「アプリコットさんが奈々原ってことか」
杏瑞はまた、こくこくと頭を上下した。
「こんなことって、あるんだな……」
正体をばらした杏瑞は下を向いたままだったが、頭を上げ安房をチラッと見た……
(安房くんが笑ってる………)
安房の表情は杏瑞に対して嫌悪や悪意はなく、むしろ温かく感じるものだった。
「そうか……奈々原だったのか」
安房は笑顔だった。
「俺がちょろぎと知って、確認したかったんだな……」
またも杏瑞はこくこくと頭を上下した。
「そういうことなら、なずな…鈴城《すずしろ》にも伝えた方がいいと思う」
(えっ? 鈴城さん? 突然なんでその名前が出てくるの?……)
安房は不思議そうにしている杏瑞を見て
「あ、そうか。ごめん、分からなくて当たり前だったな」
「ペンペンって、鈴城なんだよ」
「えっ!!!」
あまりの衝撃に思わず声がでた。
「今度は奈々原がびっくりしたな」
安房が笑いながら伝えた。
「あいつが聞いたらどんな顔するのかな?」
安房の笑いが止まらない。
「ほら、行ってこいよ。ここで見てるから」
軽く杏瑞の背中を押し、杏瑞を促す。
杏瑞はオドオドしながら安房と鈴城を交互に見ながら足取り重く進んで行く。
安房はにこやかに杏瑞を見守っていた。
そうか、アプリコットさんが奈々原だったのか…… 安房は入学当初に担任から伝えられた話を思い出した。
――――――――――――――――――――
担任からクラス全員に『伝えたい事があります』と、話し始めた。
「今日、通院のため欠席している奈々原杏瑞さんのことです」
「奈々原さんは……人前で話すことがとても苦手です。そのせいで小・中学校と、嫌な思いをたくさんしてきたと、ご両親から伺いました」
「私が聞いた限りでは、皆さんが〈いじめ〉と聞いて思い浮かぶであろう事柄より、はるかに衝撃的でした。彼女が受けてきたのは……
その範囲を大きく超えています」
一瞬、担任は言葉を探すように目を伏せた。
「もし、私が同じことをされていたら……
とても耐えられなかったと思います。言い方が不適切ですが〈一線〉を越えていても……
おかしくなかった程です」
「彼女は学校に良い思い出がありません。
“高校には行きたくない”とまで言ったそうです。でも……ご両親が時間をかけて説得し、やっとここに来てくれました」
「ですから皆さん、彼女を『からかわないで』ください。もし、勇気を出して話しかけてくれたら...... 『しっかり聞いて』あげてください。この二つだけは、絶対に守ってください」
「そして、何かあれば私に知らせてください。
クラス内だけではなく、他の生徒から何かされている所を目撃したら報告して下さい。
私は……全力で彼女を守ります」
「無理に仲良くしてほしいわけではありません。ただ……見守ってあげてください。
もし、“友達になりたい”と思ったなら………
それは先生として、本当に嬉しいことです」
その教室で、いつもなら授業中に私語をする生徒さえ、この時だけは誰一人として口を開かなかった。
――――――――――――――――――――
「見守ってあげてください」
「友達になりたいと思ったなら」……か。
安房は呟いた……
杏瑞は鈴城に向かって少しずつ、歩いていく。なずなは友達二人と談笑していた。
(鈴城さんか……言いにくいな……)
杏瑞は鈴城なずなに対して
『憧れ』『羨望』そして、『罪悪感』を抱いていた。
なずなはクラスはおろか、学年中でも人気がある。美人で誰にでも気軽に接して来て、杏瑞とは『正反対』の存在だ。
過去、杏瑞はそんな彼女に『酷いこと』をしてしまった。
――――――――――――――――――――
あの日は朝から雨。下校時には雨足も強くなり、帰ろうと傘立てに行くと傘を見つけることができず、私はしばらく探していた。
その時、通りかかった鈴城さんが寄ってきた。
「傘がないの?」
突然話しかけられ、びっくりと恥ずかしさで何も言わず外に走り出した。
後を追いかけてきて、ずぶ濡れになりながら「これ使って」と傘を渡された。
おもいきり頭を左右に振り、拒否したが
「風邪を引くから。私は何とかなるから気にしないで」と校舎に走って戻っていった。
翌日、お礼を言おうと思っていた。
いつもより早く登校して待っている間に、繰り返し『練習』をした。
しかし、練習をすればするほど緊張してきて……
結局、傘を机にそっと返して逃げるように離れた自分が情けなくて仕方がなかった。
そんな自分の行動に嫌気が差した。
こんな私だからいじめられるのも当然か……と。
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そんなことがあり、自分で蒔いた種とはいえ、なずなに話しかけるのに勇気が必要だった。
ゆっくり歩いていたとはいえ、狭い教室。なずなは目の前に迫っていた。杏瑞は振り返り安房を見る。
安房はニヤニヤしながら杏瑞に『うん、うん』とうなずき、見守っている。
杏瑞はオドオド、キョロキョロしながら話しかけるタイミングを探していた。
なずなが杏瑞に気がつき、
「奈々原さん、誰かに用事なの?」と、優しく話しかけてきた。
「あっ、あ、あの……」
声は喉の奥で絡まり、そこまで来ているのに外に出てくれなかった。
指先をぎゅっと握り、白くなるほど力が入っていた。
「すっ、すず…すず…しろ……さんに……」
「えっ? 私? 何かな?」
なずなは不思議そうにしていた。
杏瑞は人がいる所では言いにくいので、
『んっ』と、廊下を指差す。
「廊下で? 分かったわ」
なずなは二人に「ちょっと待ってて」と伝え、杏瑞は二人に深く頭を下げ、廊下に移動した。
なずなは杏瑞が話すのを待っていた。杏瑞は安房にしたようにスマホをなずなに差し出す。
「スマホ?これを見るの?」
『うん、うん』頷く杏瑞。
「えっ?これ[MMモバイル]? ん、んー?」
画面を凝視するなずなだったが、杏瑞の言いたいことに気がついた。
「えっ!!えーーーーーー!!!!」
なずなが大絶叫。廊下一杯に声が響き、教室内から「何事?」と顔を出す生徒が多数いた。
「アプリコッ……奈々原さんっ!!!」
次の瞬間――――
なずなが杏瑞に思いっきり抱きついた。
ギュッと、力強く。
思わぬ行動に杏瑞は驚いた。
「なんで私がペンペンって、分かったの?」
なずなは興奮気味に質問した。
「あっ、あ……あわ、くんが…」
それを聞いたなずなは「ちょっと来て!」と、杏瑞の手首を掴み、教室へ向かった。
「卓也《たくや》!なんで黙ってたのよ!!」
凄い剣幕で、なずなが杏瑞の腕を掴みながら小走りで安房に迫って来た。
「黙ってた訳じゃない。俺も今聞いたばかりだし」
「えっ、そうだったの?」
杏瑞は『こくん』と頷く。
「奈々原さん、なんで卓也がちょろぎって、分かったの?」
………………
杏瑞は勇気を振り絞って、家族や病院の先生以外に……数年ぶりに話しだした……
「そっ、それ……は、あっ、あわくんのこ、とを……ちょっ、ちょちょろぎた、たいちょ……うって、いったひとが……い、いたから」
「誰?」
「希葉だよ」
「あ、前までクランにいた卓也の友達の…」
希葉のイジリで繋がった三人。隊長、隊長とウザいと思っていたが、今の安房は感謝していた。
杏瑞は視線を感じ、周囲を見渡した。するとクラス全員がこちらを見て黙り込んでいる。
それはそうだろう、今までこの三人で会話をしている所を見たことがない。
杏瑞が話すのはもちろん、安房となずなが会話している所など一度もない。しかも、「卓也」と呼び捨てだから周囲は唖然としている。
杏瑞は『注目されている』ことが凄くイヤではあったが『ちょろぎとペンペン』の二人が目の前にいるため、ゲームの時のように『安心と信頼』で緊張はなかった。
「あっ、あわ…くん……と、すっ、すず…しろ…さんは、なか、がいっ…いいの?」
周囲が感じている疑問を代表しているように聞いた。
「卓也とは家が隣同士。小さい頃からずっと一緒なの」
「でっ、でも、がっ……がっこうで…はっ、はなしてる…とこ…み、みたこ…とない」
「それは、帰れば毎日話すから。特別、学校で話すことがないから話さないだけ。それだけなんだけど」
安房も『うん、うん』頷いている。
杏瑞はゲーム内で二人の仲が良い理由がはっきり分かった。
あまりにも自然で、お互いが憎まれ口を言っても普通にしているのが不思議に感じていたから。
「でも、ほんと、びっくりしたわ。まさかアプリコットさんが」
すると昼休みを終了するチャイムが鳴った。
「なんなのよ!これからって時にチャイムなの!?」
なずなが文句を言う。
「しょうがないだろ」
安房が呆れぎみに応える。
杏瑞は[ルーム内チャット]のような流れに「くすっ」と、笑ってしまった。
(やっぱり二人は、ちょろぎさんとペンペンさんなんだ……)
「今日は職員会議で次の授業で終わりだから、また後で話しましょ!」
なずなが言いながら席に戻っていった。
「やっぱり、なずなのペースか……」
安房が苦笑いをする。
「あいつ、結構面倒くさいところがあるから覚悟しておいたほうがいいぞ」
杏瑞に笑いながら話しかけた。
(私は吃音症なのに、二人は受け入れてくれている……何で?……みんな私を笑って、からかって、いじめるのに……)
二人に今までなかった対応をされ、戸惑っていた。
([MMモバイル]のときと変わらないままだ……優しくて、楽しくて、温かい……)
杏瑞には理解できなかった……からかわれたり、いじめる人たちは数人ではあったが、それ以外は遠巻きで笑う人、あからさまに嫌な顔をする人ばかりだった。受け入れてくれる人は誰もいなかった。
(私は普通じゃないのに……)
(私は……普通じゃない…から……)
頭の中で色々考えていたが、結論はでないまま……。
いつの間にか、授業は終わっていた。
ホームルームが終わり、帰り支度をしていると、なずながこちらに走ってきた。
「ねぇ、奈々原さん、このあと用事あるの?」
突然の質問に戸惑いながら首を左右に振る。
「良かったぁ。奈々原さんの家ってどこ?」
質問の意図は分からないが、最寄りの駅名を答えた。
「うちから1つ先の駅なんだね」
なずながニコッと笑う。
「うち……じゃなかった、卓也の家で一緒に[MMモバイル]しよう!」
「え、えっ……?」
突然の誘いに虚を突かれ、手に持っていた教科書を落としてしまった。
なずなが「あっ!」と声をあげ、拾い始めた。「はい」と、教科書を杏瑞に渡す。
「ね、いいでしょ?……イヤかな?」
「なんで、俺の家なんだよ」安房が話しに加わる。
「だって、今日はお姉ちゃん、うちにいるし」
安房は悟ったように「そっか」と納得していた。理由のわからない杏瑞に、なずなが説明した。
「うちのお姉ちゃん、テレビに話しかけたり、笑ったり怒ったりがすごいの。しかも大声で。私の部屋だと電波状態が悪いから、普段はリビングなんだけどマイクをオンにすると、お姉ちゃんの声が入ってくるの」
安房が補足する。「あの人、マジうるさいんだ」と。
「だから卓也んちにするわけ」
「今日はいつもより早く終わったし、明日休みだから。いいよね?奈々原さん」
なずなは嬉しそうに誘っている。
「でっ、でも……」杏瑞の顔が歪んできた。
「迷惑かな……?」なずなは心配そうに杏瑞を見た。
「(だめ……)」
「ん?」
「だっ、だめ、だよ……」
杏瑞は二人の『やさしさに』勘違いをしていた。私は普通じゃない………周囲から嫌われる存在なんだと。
勘違いをして一瞬、有頂天になっていた自分を恥ずかしく思った。
そして、感情的になり、大声で…涙を流しながら叫んだ。
「わっ、わた…しがっ……い、いる…と…みっ…みんなにっ……めい、めいわ…くがっ、か…かかる…から!」
「わっ、わ…たし…が、しゃ…しゃべっ…ると、みっ、みん…な……いら…いらしたり…ふ、ふ…ふきげんにな……るから!」
「きっ、きつ…おん…しょう…の、わっ…わたしは、みっ…みんな…と、いっ…いっしよっ…に、いっ…いちゃ、いっいっけな…い……の!」
「みっ…みんな、わた…わたしを、きっ…………きもち…わ、わるが…がって…………そっ、そしてっ………いじ、いじめる……から!」
杏瑞は初めて自分自身の気持ちを吐き出した。心の奥にあった世間からの評価を。
掃除当番と、一部残っていたクラスメイトは
黙って聞いていた。
杏瑞の思わぬ発言を聞いたなずなは反論する。
「そんなこと、そんなことないよ!なんで奈々原さんが話してはいけないの?」
「誰が言ったの?言ったやつ教えて!私が文句言うから!」
「自分で決めつけちゃだめ!相談してよ。私も卓也もいるから……」
「いつものあの楽しそうなアプリコットさんでいて!」
私はさらに泣き出した。鈴城さんが私のことを思っていてくれたなんて知らなかった。
鈴城さんはやさしく背中を撫でてくれていた。
安房くんは私に目線を合わせ
「言ったろ、チームキラーは俺に任せろって」
そして、いままで出したことがないくらい、
大きな声で
……泣いた……
落ち着きを取り戻し、気がつくと鈴城さんは私を抱くように正面から包んでいてくれた。
私の涙で鈴城さんのシャツが濡れていた。
申し訳なくなり離れようとしたが、力強くギュッとされ、そんな鈴城さんをみると……泣いていた。
(ありがとう鈴城さん……)
