お嬢様は結婚したくないっ!

 車は目的地に着く。立派な三階建ての豪邸。車が近付くと、門は自動で開いた。

 執事の御影が車から降りて、ドアを開ける。

「ありがとう御影さん」

 そう言って亜子は車から降りた。釧路家の面々もぞろぞろと車から降りる。

「ふわー、凄い!! 豪邸!!」

 真菜がはしゃいで言う。

「それでは、みなさんこちらです」

 亜子は皆を先導し、玄関まで歩いた。

 玄関口に近付くと、御影は玄関の大きなドアを開けて、お辞儀をしながら立った。

 これが執事かと、真幸は勉強のために御影をよく観察する。

 中に入ると、釧路家には分からないが、多分高級なオブジェや間接照明の灯りが出迎えてくれた。

「すごーい!!」

 真菜はキラキラした世界を見て目を輝かせる。

「お部屋はこっちです」

 お嬢様によって、客間に案内された釧路家の面々。

 柔らかなソファに座り、お嬢様と対面する形になる。

 後から御影が紅茶を持って部屋に入った。

「よろしければ、どうぞ」

「あっ、どうも……」

 真幸は頭を軽く下げて目の前の紅茶を見つめた。

「ありがとーございます!」

 妹の真菜もお礼を言い、母の真弓も頭を下げる。

「御影さん、ありがとうございます」

 そして、御影は亜子の後ろに立つ。

「あのー、失礼ですが。私、親御さんにも挨拶がしたくて」

 真弓が言うと、亜子は少し寂しげな顔をする。

「父と母は、仕事人間でして……。数年会っていません」

「ごめんなさい、そうだったのですね」

 しょんぼりする真弓を見て、亜子はいえいえと手を前に出して振った。

「それだけじゃなくて、家の方針で、親元を離れて一人で暮らすようにという家訓がありまして!」

 それを聞いて真菜が驚く。

「なるほど、という事は。このお家、お姉様と御影さんだけで住んでるとか?」

「えぇ、そうです」

 釧路家の面々は口をあんぐり開けていた。

「お嬢様、そろそろよろしいですか?」

 亜子の後ろから御影が身を(かが)めて言う。

「あぁ、御影さん。お願いします」

「では失礼して。率直に言いましょう。皆さまをお雇いする事、この御影は反対でございます」

 真幸は思った。あぁ、これが圧迫面接というものかと。

「それは……」

「釧路真幸様、あなたはお嬢様の為に何ができますか?」

 その質問に、真幸は元気いっぱいに答える。

「何でもできます! 靴も舐めます! っていうかむしろもっとこう、食います!!」

「なっ何でも!?」

 亜子は真幸の『何でもできます』という言葉に赤面し、その後ろのとんでもない発言はスルーしてしまっていた。

 だが、ふと我に返り、慌てて言う。

「靴は舐めなくて良いし!! っていうか食べられないし!!」

 亜子の発言に真幸は真顔で返す。

「いや、食べられますよ!!」

 それを聞いた妹の真菜がツッコミを入れた。

「いや、おにぃ。私、靴は嫌だよ!!」

 その言葉に亜子はうんうんとうなずくが。続けて真菜が言う。

「だって、靴は美味しく無いもん!!」

「そんな贅沢は言うな、親父の残した革靴は煮たら食えただろ!!」

 二人の発言を聞いて、真弓は顔を抑えながら「ごめんね、ごめんね……」と呟いていた。

 今度はお嬢様と執事が衝撃を受けて口を開けている。

「み、御影さん。ともかく釧路くん……。いや、真幸くんは大変なんです!! 人として助け合わなければ……」

「さ、左様ですなお嬢様。今、お食事をご用意致しますので……」

 そこで真幸は亜子と御影に尋ねた。

「あ、あのー。俺達は、雇ってもらえますか?」

 亜子は勢いよく返事をする。

「採用!! もう採用も採用です!!」

 釧路家の面々はソファから立ち上がり大喜びし始めた。