お嬢様は結婚したくないっ!

 亜子は恥ずかしそうに、釧路家の面々に言った。

「私、お料理が怖くて、あまりやった事が無いんです」

 真菜は思いがけない告白を聞いて頭に疑問符が浮かんだ。

「怖い……、ですか?」

 亜子は頷いて話し続ける。

「えぇ、お料理は使用人の人達がやってくれていたので……。私、お料理やったこと無くて、包丁も怖いし、失敗しちゃうのも怖くて……」

 そして、真幸を見ながら言った。

「だから、同い年なのにハンバーガー屋さんで働いている真幸くんが凄いなって思っていました」

 思わず赤面する真幸。

「い、いや! そんな大したもんじゃないですよ!」

 亜子は首を横に振ってから言い続ける。

「ううん、私にはできないから、凄いよ!」

 なんだか、今までの頑張りまで褒めてもらえた気がして、じーんとする真幸。

 母、真弓がニコニコと笑顔で亜子に言った。

「できないなら、やってみましょうお嬢様。やらなくちゃ一生できないまま! ですよ?」

「はい! そうですね!」

 亜子は元気に返事をし、真弓は笑顔を向ける。

「それじゃ、亜子お嬢様は右利きだから、左手をこう指先を曲げて」

 言われるがままに玉ねぎの上で左手の指先を曲げる亜子。

「そして、怖いかもしれないけど、包丁の横の部分を左の指にくっつけるの。付けて安定させないと、逆に危ないですからね」

 恐る恐る言われた通りにする。

 それを見て真弓は「上手上手」と喜んでいた。

「それじゃ、上から押すんじゃなくて、先の方から力を入れて、引くように切ってみましょう!」

 言われて、玉ねぎを切ってみる亜子。初めてにしては上手に切ることができた。

 母、真弓はそれを見てパチパチ拍手をした。

「すごーい! お嬢様流石です!」

 真菜も亜子を褒め称える。

「流石は亜子お姉様! 玉ねぎ切りの亜子お嬢様の二つ名は伊達じゃない!」

 亜子は思わずツッコミを入れた。

「い、いつの間にそんな二つ名が!?」

 真幸もうんうんと頷いた。

「これで、どこでも玉ねぎ切り職人として胸を張れますお嬢様」

「玉ねぎ切り職人って!?」

 そして、釧路家の面々による「亜子お嬢様バンサーイ」コールが響いた。

「ちょ、ちょっとやめてー!」

 その後も真弓に教わりながら野菜を切り終えて、鍋で煮込む。

 そこに軽く炒めた牛肉を投入し、調味料を入れて煮込んだ。

 真弓は亜子に料理の説明をする。

「沸騰させると、お出汁の香りが飛んじゃうから、ゆっくり煮るんですよー」

 亜子は知らなかったので感心していた。

「へぇー。そうなんですね!」

 やがて、米も炊き終わり。肉じゃがも完成した。

 真菜が喜んで言う。

「かんせーい!」

 真弓が皿に一食分盛り付けて用意する。

「それではお嬢様、食堂へどうぞ!」

「あ、あのー。皆さんの分は?」

「亜子お嬢様が頂いた後に頂きますわ」

 それを聞いて亜子は寂しそうな顔をする。

「私、皆さんと一緒が良いです」