婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 シロマツに「座れ(シット)」「待て(ウェイト)」などと指示を出して、シロマツが気分次第で言うことを聞いてくれると大喜びでほめた。
 おもちゃの綱でひっぱりあいっこをしたら思った以上に力が強くてびっくりした。

 新しい環境に興奮して暴れるシロマツを押さえようとしたら、体をひねるだけで簡単に拘束をほどかれて転んでしまった。こんなに力があるなら軍用犬として求められるのもわかる。
 シロマツと遊ぶのは楽しいが、一日中そうするわけにもいかない。散歩は女中がやると言われてさせてもらえない。

「幸せってなんだろ」
 シロマツにブラシをかけながら、燈子はひとりごちる。

 母に幸せになってと言われた。
 だけど日々を生きることに一生懸命で、「幸せとはなにか」なんてきちんと向き合ったことはなかった。
 ごはんがきちんと食べられること、住むところがあること、虐待されないこと。
 ずっと願っていた。普通の人が持っているものを。

 それらは颯雅のおかげですでにかなっているし、守ってくれるとも言われた。
 彼は公爵子息で、将来も保証されている。そんな男性が未来の夫である。
 充分以上に幸せなのに、心がざわざわして落ち着かない。

 もっとなにか役にたちたい。自分にできることはなんだろう。
 我慢できずに、燈子は立ち上がる。

 ブラシを片付けて庭で車を磨く運転手に向かうと、気配に気づいた彼が振り返った。
 燈子は彼の前で頭を下げた。

「お願いがあります。運転を教えてください」
「ご冗談を」
「このまま家にいたらおかしくなります。颯雅様のお役に立ちたいんです!」
 燈子が何度も真剣に伝えると、渋っていた運転手は、仕方ない、という様子でため息をついた。