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士郎は有頂天だった。自分の記事が新聞の一面を飾って売り切れが続出し、新聞社への問い合わせが殺到した。予想以上の結果だ。
あやかしが現れたあのとき、病狗と打ち合わせたとおりに建物の陰から颯雅の写真を撮り、婚約者を守った守護神として記事を書いた。
翌日には特報記事として人々の大きな関心を集め、翌々日には各社が後追い記事を出した。重大なネタを先んじて報じた自分は編集長から大いにほめられ、報奨金は間違いないだろうと言われた。
軍は苦情を入れてきたが、あの青年が颯雅であることを否定してはいない。つまりそれは颯雅が人間になっている裏付けでもある。
あきつしま新聞だけは慎重な態度を貫いていて馬鹿だなと思う。同じ番記者の廉次の顔が浮かび、けっと吐き捨てるように笑った。あの真面目な堅物を出し抜けたことが嬉しくてたまらない。
仕事帰りに仲間とともに酒場で祝杯を上げたのち、いい気分で夜の街を自宅へと歩く。
が、ふと犬の姿が目に入っていっきに酔いが醒めた。
「あの犬は……」
暗がりからのっそりと現れたそれには人の顔。
病狗だ!
士郎はとっさに逃げそうになった。病狗と相対するときは薄氷を踏む思いだ。ご機嫌を損ねたらいつ殺されるかわかったものではない。用済みになったらどう処理するべきか。
「酒臭い。探すのに手間取ったではないか」
士郎は舌打ちしそうになった。病狗には臭いで居場所がばれるらしい。
だが、こいつのおかげであのゴシップをどこよりも早く書けたのだ。あやかしと化す犬を颯雅の行く先に放ってくれたのはこいつなのだから。



