婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 燈子は息をするのも忘れてあやかしを見つめた。
 母の仇。いや、あのときのものとは違うはず。
 だけど、きっと同類だ。

 一矢を報いたい。だが、恐怖に足が震える。
 あんな大きなもの、到底かなうようには思えない。
 空想の中では何度も倒したあやかし。だけど実際に目にするとすくんでしまってなにもできない。

「逃げろ、燈子!」
 颯雅はあやかしから目を離さず言う。
 あやかしは変化したばかりのせいか、動きが鈍い。

「くそ、集中できない」
 颯雅は念じないと狼に戻れない。精神集中をしようとしている間にあやかしは人を襲うだろう。牽制で余裕がなさそうだ。

「あおーん!」
 咆哮したあやかしはのそりと歩き出し、人々が散り散りに逃げる。

「きゃああ!」
「来ないでえ!」

 あやかしの歩みはのろく、人々に追いつけない。――今のところは。
 颯雅が人々との間に割って入り、あやかしを再び牽制する。

 なんとかしなければ。
 燈子は周囲を見回し、骨董店に駆け出した。目指すのは飾られているサーベル。

「借ります!」
 叫ぶと、店主の返事を待たずにそれを持って颯雅のもとへ駆けつける。