医務室にいた軍医は、すぐに燈子の足を診察してくれた。
「骨は折れてない、捻挫(ねんざ)だね。湿布を貼って安静にしてれば治るよ」
 そう言ってシップを貼り、包帯を巻いた。手のすりきずも消毒してくれて、その様子に颯雅は一安心したようだった。
 シロマツは別の人に預けて、獣医へ連れて行ってもらっている。

「しかし大丈夫かね、綾月くんはここの匂いが苦手だろう?」
「そうなんですか?」
 燈子が聞くと、颯雅は頷いた。

『人間より鼻がいいからな。薬が臭くてかなわん』
「大変そうですね」
 視線に気付いて軍医を見ると、彼はぽかんとしていた。

「本当に言葉がわかるんだね」
「はい。普通に聞こえます」
「すごいな」
 軍医がさらに質問をしようとしたときだった。
 がらっと扉が開いて、ひとりの兵が駆け込んで来た。

「先生、すぐ来てくれ、階段から落ちたやつがいるんだ!」
「こちらは大丈夫ですから、行ってください」
「わかった」
 軍医が慌てて出て行くのを見送り、燈子は颯雅に向き直る。

「助けてくださってありがとうございます」
『礼を言われるほどのことじゃない』