週末、燈子はスエに手伝ってもらって出かける準備をした。
颯雅に買ってもらった着物を着て、仕上げにりんごの花を模したかんざしを挿し、リビングで待つ彼のもとに急ぐ。
颯雅は今日も洋装で、ソファに足を組んで座り、新聞を読んでいた。
彼の母には新しい医者がつき、光明が見えたという。そのせいかいつもより機嫌が良いように見えた。
燈子が来ると新聞をテーブルに置いて笑みをこぼす。
「今日もかわいいな」
燈子はどきどきしたが、平静を装う。
「颯雅様も素敵ですよ」
颯雅が照れるのを期待したが、彼はふふっと笑うだけで、なんだか悔しい。
「燈子が提案してくれた五十音表だがな。軍には進言しないことにした」
「なぜですか」
五十音を表にして使えば狼の颯雅との意思疎通が楽になるだろうと思った。文字を前足で示せば、肯定・否定での話し方をしなくても会話ができそうだ。
「ないほうがずっと燈子と一緒にいられるだろう?」
堂々と言う颯雅に燈子はあきれた。
「軍人たるもの、そんなことでよいのですか」
「知らん。俺は俺なのだろう?」
颯雅が挑発的に聞き返すから、自分がおかしい気がしてきてしまう。
ふたりは運転手が運転する車に乗り、光越百貨店に向かった。
店前に到着すると車はそこで待機して、燈子は颯雅とともに写真館に入る。
店主から出来上がった写真をもらい、燈子は居心地が悪くなった。
鏡に映る自分とは違う。お化粧のせいだろうか、普段より血色がよく幸せそうに笑う娘がそこにいた。隣に立つ颯雅はびしっとしていて微笑もさまになっていて、いつも通りにかっこいい。



