婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「殺す……ころ、す……」
 病狗は炎に包まれた体をひきずるように一歩を踏み出す。

「犬ども、街へ行って人を襲え。殺せ!」
 病狗が命じる。
 だが。

「ぎゃいん!」
 悲鳴が響き、燈子はそちらを見た。
 最後の一匹が、軍用犬によって屠られたところだった。

「おのれ、疫病神め!」
 炎をまとった病狗が颯雅を襲う。
 だが、その動きは遅い。

 颯雅は折れたサーベルで病狗の牙を受けた。ぐぐ、と押し合いになる。病狗が首を振った衝撃でサーベルから手が離れ、だから颯雅は後退した。

 病狗がにやりと笑ってサーベルを吐き捨てて襲いかかる。
 颯雅は素手で病狗に向かう。

「颯雅様!」
 燈子は思わず声をあげていた。

 二者が衝突する。
 颯雅はすぐさま飛びのいた。

「ぐあああああ!」
 病狗が苦悶に倒れる。その胸には短剣が刺さっていた。
 颯雅は懐に隠し持っていた短剣で病狗の心臓を一突きにしたのだ。

「俺はなんと不幸なのだ」
 病狗は血を吐き、それからがくりと首を垂れた。

 炎は病狗の穢れを含んだように黒煙を上げ、揺れる炎が周囲を明々と照らす。

 シロマツが勝利の遠吠えを上げ、呼応した軍用犬たちが遠吠えの合唱を響かせる。
 燈子はへたりこむように地面に座り、それを眺める。

 いつしか空に垂れこめていた雲は晴れ、薄明の空に満月が希望のように浮かんで地上を照らしていた。