婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「こんなになにもできないなんて……」
 燈子は悔しくてぎゅっとこぶしを握る。
 かつてと同じく、見ていることしかできないのだろうか。自分はもう子供ではないのに。

 自分にできることといったら家事だけだ。
 運転ができれば彼を送迎できると期待したこともあるが。

 思って燈子はまじまじとハンドルを見る。
 エンジンはかかっている。

 燈子は運転席に座り直した。
 運転の手順を必死に思い出す。

 颯雅を乗せて街に戻れれば。
 そうして軍の応援を呼べば。
 顔を上げると、颯雅が木の幹に追い詰められていた。

「颯雅様!」
 とっさにホーンを鳴らすと『ぷわああああああ!』と響き渡った。
 病狗がこちらを見る。

 燈子は何度も練習したその感覚で、操作する。
 ぎゅん、と車は急発進した。

「きゃああ!」
 予想もしなかったスピードで車は病狗につっこむ。

「なに!?」
 病狗はとっさによけられずに跳ね飛ばされ、何メートルも向こうで地面に叩きつけられる。
 車は前面がぐしゃりと壊れ、横転した。