婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 心は一刻ごとに揺れる。
 人ではないと蔑み、新聞に簡単に煽られて颯雅をなじる。

 そんな人たちを守る意義はあるだろうか。もう、見捨ててもいいだろうか。燈子とひっそりと生きる、そんな未来でもいいだろうか。そもそも自分がいなくても軍はあやかしを退治できるのだ。

 だが、それで燈子に誇れる自分でいられるだろうか。燈子はそれで幸せだろうか。

 彼女の世界を極楽にしてやると宣言したのに。
 悩み、迷い、本の内容はまったく入ってこない。

 あきらめて本を閉じたとき、ドアがノックされた。
 扉を開けると、そこには研究所の宿直がいた。

「ご自宅のスエさんから電話が入ってます。事務室へお願いします」
「わかった。礼を言う」

 なにかあれば電話をくれるように頼んであったが、とっくにスエの就寝時間を過ぎている。にもかかわらずかかってきたということはよほどのことだ。
 事務室に行くと壁に据え付けられた電話機のそばにひとりの研究所員がいて、颯雅に受話器を渡してくれた。

「スエさん、どうした?」
『若奥様がおられません。シロマツもいません』

「なんだと」
『お部屋を探したら、妹様からの手紙がありまして。呼び出されたようなのです』

 スエは手紙の文面を読み上げる。
 颯雅はぎりっと奥歯をかみしめた。

 燈子は素直に言うことを聞く娘ではなかった。黙って出ていくことについて、もっと気を付けておくべきだった。
 と同時に、この期に及んであの妹の性根の腐りっぷりを甘く算段していた自分を責めた。